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ゴシックドレスの美少女
おじさんはすぐに眠りに落ちてしまった、ように見えた。
少女はおじさんの方を見ながら何かをつぶやいている。するとどうだろうか、くたびれていたおじさんの顔がどんどん緩み、笑顔になっていくのがわかった。
5分ぐらい経った頃だろうか、女の子がおじさんに声をかけて目を覚まさせた。
ちょうどそのテーブルに、彼が注文したものらしいマルゲリータピザが置かれた。2人はそれをつまみながらさらに5分ほど話をすると、おじさんはつきものが落ちたような顔で会計へと向かっていった。
この時、少しだがおじさんの顔にひげが増え、疲れが出ている気がした。
ぼくはやけ食いがひと段落すると、ゴシックドレスの少女を観察するのが主になっていった。
次に来たのは主婦と思わしき女性。彼女はアスパラガスの温サラダを注文。その次は短髪の男子高校生。彼はグリルチキン&ハンバーグ。15〜30分毎に一人ずつきて、一品ずつ頼んでみんな少し疲れながらも笑顔で帰ってゆく。
よく見ると彼女は一切れか数口程度を別の皿に取って食べるだけで、皿に盛られた料理のほとんどは注文した人が食べていた。
彼女はいったい何者なんだ? そう思っていると、
「恐れ入ります。一旦お会計よろしいでしょうか?」
男性の30代くらいの店長さんに声をかけられた。ネームプレートにそう書いてある。気づけば入店から2時間ほど経過していた。言われるままに一度会計をすることにしてレジに向かうと、全部で3000円近くの支払いになった。ちょっと痛いが仕方がない。
お金を払って店内を見回すと、彼女はまだ居るようだ。あちらの方が明らかに長くいるはずなのに会計に呼ばれる様子もない。なんだか不公平な気分になったので、ぼくは店員さんに、
「あの人は良いのですか?」
と、ちょっと意地悪く尋ねてみると、
「ええ、彼女は……、問題ありません」
そう言いながら微笑みを返されてしまった。こうなると彼女のことがますます気になってきた。
「そうですか、もう一度席に戻っていいですか?」
「かまいませんよ」
店長さんにそう言われたので、さっきまで言われた席に戻るとすぐにフレッシュトマトのスパゲッティを注文。届いたところで思い切って件の彼女に声をかける。
「あの……」
「こんにちは。私が気になっていらっしゃったようですね」
「は、はい」
改めて見ると、少し影がありそうだがなかなかの美少女だ。ぼくが自分の向かいに座るようにうながすと、彼女はうなづいて席についた。
「突然だけどさ、キミは何をしているの?」
「んー、あれこれ説明するより試した方が早いと思いますけど。寿命を1日だけいただきますけど」
寿命を1日!? なんだ突然。よく分からないけど、彼女の正体を知るためにともかく話に乗ってみることにした。
「ああ、かまわないけど」
「あら、素直でよろしいですわね。それでは早速始めましょうか。まずは……、私の目を見てください」
彼女の目を見つめてみる。綺麗な緑と赤のオッドアイ。それがきらりと光ったと思うと、ぼくはあっと言う間に気を失ってしまった。
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