あの夏

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 あの時の2倍の人生年数を重ねた僕は、県外に就職先を決めた。  あれから、なおちゃんには会っていない。雛おばちゃんの店が時々閉まるのは、なおちゃんのところに手伝いに行ってる為だと、後で知った。  夏の最中、例の坂を登って、久しぶりにガラス戸をスライドさせると、おばちゃんが笑顔で迎えてくれた。 「久しぶり、怜くん! 大人っぽくなったわねえ」 「サイダーください」  僕の言葉におばちゃんは満面の笑顔で、サイダーを取りに行ってくれた。『大人っぽく』か。苦笑いしながら腕で汗を拭い、もう1年ぶりになった店の中をぐるりと眺める。 「来週孫が来るんだよ。会いに来ない?」 「ええー」 「礼司の命の恩人なんだよっていつも話してて、会いたがってるよ」 「いいよ。よろしく言っといて」  僕は困ったまま笑って、蓋から玉押しを取り出す。硬いガラス玉がカチンと落ちて、玉押しを通じて、炭酸を手のひらに感じた。  毎年、1回。  もしかしたらなおちゃんに会えるかもしれないとドキドキしながら、雛おばちゃんの駄菓子屋へ行く。  今年も会わなかった。  それにほっとしながらも、なんだか残念な気持ちだ。  『礼司』くんは、感謝の心を忘れないように、という意味を込めた名前らしい。彼は今、あの頃の僕と同じくらいの年だ。
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