あの夏

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 あの日のトラウマか何か知らないけど、女の子の近くにいるのは今でも苦手だ。  嫌悪感は無いけれど、辺に意識してしまって、挙動不審になる自分が嫌だ。    一太からは小心者って笑われるけど、父親はそれで良いさと言ってくれる。いずれ好きな人ができて、関係を持ちたいと思う時が来るだろうから、と。  毛が生えてきて、声が低くなって、背が伸びて、随分経ってから分かった。  あれが、僕の初恋だった、と。  毎日勉強して、友達と遊んで、ご飯食べて寝て。  それが当たり前で、自分の存在の意味なんて、考えたこともなかったんだ。  生まれてきた子供たちは、やはり誰かに望まれて、愛されて生きている。毎年礼司くんの成長の話を聞いて、僕は心の氷をちょっとずつ溶かしてきた。  僕たちは、もらった愛情を誰かに返すために、生きている。  坂道の並木道。アブラゼミの鳴き声を耳に、僕は木漏れ日の向こうの光を見つめた。  あの夏休み。  坂の上の店で、僕はなおちゃんに出会った。 〈おわり〉
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