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蝉時雨の中、僕はサイダーを目指して坂道を漕いでいた。
等間隔で植えられた銀杏の並木道。そこを自転車で通り抜ける僕の速度は変わらない。男の意地と根性だ。
木陰、日向、木陰、日向。
耳の中で、セミの鳴き声が波のように大きくなったり小さくなったりしていた。
汗が全身を流れる。顔が熱いのは、太陽がギラギラだからか、コンクリートの熱か、僕自身が燃えてるからか。切れる自分の息がやけに耳についた。
もうすぐ雛おばちゃんの駄菓子屋に着く。そこにしかない、キンキンに冷えたサイダーは僕のお気に入りで、夏はそれがないと夏じゃない。
坂を登り切ると、古い住宅街の中に挟まっている店。
僕はポケットの100円玉をズボンの上から確認して、「ヨシッ」と青空に吠えた。
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