大人になる前にしたいこと(実花の場合)

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「俺は?」 「……の……す……」 「え、何? 聞こえな――わっ!」  不意に、ゆーちゃんが私の肩を掴んだ。そして、乱暴に私の体を引き寄せた。  あまりにも突然で、構えていたのにパニックに陥った。   「え、えっ!? ちょ、ゆーちゃん!?」 「実花のこと、好きだ」  言うことだけ言って、ゆーちゃんはサッと私から離れた。やってしまった、と顔に太字で書いてある。  パニック状態だった頭が、だんだんと現実を取り戻していく。 (……これって、あれだよね?)  抱き締めてくれたんだよね?  想いが、通じたんだよね?  好きって……言ったよね? 「な、何やってんのっ? い、いきなり抱きしめるとか……」  何か言わなきゃと思って、口を突いた言葉がそれだった。いや、私が何やってんの。  どうでもいいじゃん。そんなこと。  すっごく、嬉しかったんだから。 「……先、越されたから。癪だったから」  癪? 先を越された?  場違いな言葉に、一瞬だけ思考が停止する。  だけど、すぐに喉から笑いが込み上げてきた。 「あはははははっ! 何それ、勝負してんのっ? ウケるー!」 「別に勝負とかじゃねーし! お前に先越されたのがムカついただけだし!」 「ねぇ、もっかい『実花』って言ってよ」 「言わねーし!!」  時計の針が、夜の0時を指した。 (言えた……)  言えたよ。大人になる前に、この気持ちを伝えられたよ。  伝わったよ。大人になる前に。 「ねぇねぇ、言ってってばー」 「……二十歳の誕生日、おめでとう」 「『実花』?」 「だから言わねーって!!」  いつもの子供っぽいゆーちゃんを前に、また笑いが込み上げる。  ねぇ。何で私が、ゆーちゃんを好きになったか知ってる?  前の彼氏みたいにカッコ良くないし、優しくないし、子供っぽい。そんなゆーちゃんを、どうしてずっと好きだったか知ってる?  ゆーちゃんは知らないだろうね。  君が、先に私を好きになったんだよ。先を越したのは、ゆーちゃんの方なんだよ。  ゆーちゃんが私を熱っぽい目で見るから、私への接し方がぎこちなくなったから、私に向ける顔が素直じゃなくなったから、気付いちゃったんだよ。  ゆーちゃんは、私を好きになったって。  気付いちゃったから、彼を意識するようになった。彼の良さを見つけるようになった。彼との時間が、かけがえのないものになった。  ゆーちゃんが私を好きになってくれたから、私は『恋』を知った。こんなにも胸が痛くて、こんなにも満たされる想いは、きっと他にはない。  だからね、もう少しこの関係が進んで、気持ちの整理を付けてから伝えるよ。今は出し切ったからか、ちょっと照れ臭いしね。  ゆーちゃん。  私に恋を教えてくれて、ありがとう。
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