大人になる前にしたいこと(実花の場合)

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「~~~~っ!!」  ゆーちゃんが突然、椅子ごと仰向けに倒れた。え、何してんの!? 「ちょ、大丈夫!?」 「……あぁ、何とか」 「喋れるなら心配いらないね」 「お前な、誰のせいだと――」  起き上がったゆーちゃんと目が合う。  途端に、頭がカッと熱くなった。うつむいて唇を噛んでも、当然だけど熱は引かない。ゆーちゃんも、それを察したのだろう。何も言わずにポカンと口を開いている。 (私……)  今しかないと思ったから、勢いに任せて、何も考えずに言ってしまった。  私、言っちゃったんだ。  ゆーちゃんのこと、好きだって。 「お前……」 「へへ、言っちゃった」  恥ずかしさを誤魔化そうと、笑ってみる。指で自分の髪をいじっていることに気付いて、しまったと内心焦った。いつだったか、ゆーちゃんに指摘されたことがあるのだ。恥ずかしさを誤魔化す時、私は指で髪をいじるのだと。  とはいえ、わたしは無理やり話題を変えるなんて、ゆーちゃんみたいな往生際の悪いことはしない。  伝えた想いを確固としたものにするのなら、今しかないんだから。 「あ、これ冗談とかじゃないから」 「え」 「私、本気だよ」 「…………」  ゆーちゃんが黙り込んだ。私も、ゆーちゃんの答えを待つ。  友達以上、恋人未満。  友達よりも素を出せて、恋人同士みたいな面倒なこともない、心地良い関係。 (ゆーちゃんにとっては、そうだったんだろうね)  ふと、高校の時を思い返す。私に初めて彼氏ができた時のことを。まだ彼女いない歴0年のゆーちゃんに『お先ー!』とか言って、メッチャからかったっけ。  ゆーちゃんはいつものようにムキになったけど、私は知ってるんだよ。あの時、本気で怒ってはいなかったって。自分の気持ちを抑え込むのに、必死だったって。  ゆーちゃんは知らないし、思ってもいないんだろうね。  君に嫉妬してほしくて、わざわざ彼氏の自慢話をしたなんて。 (……私も充分、面倒くさいやつじゃん)  思わず苦笑しそうになった。  たまたま告白されたから付き合ってみたけど、今思えば、あの時の彼には随分と悪いことをしてしまった。  ゆーちゃんよりもずっとカッコ良くて、優しくて、大人なのに、全然ときめかなかった。恋って、こんなに乾いたものなのかと驚きすらした。  でも、違った。  あの彼には申し訳ないけど、感謝はしてる。  彼と付き合って、乾いた恋を知ったことで確信できたから。  ずっとずっと、ゆーちゃんに抱いてきた、この想いこそが『恋』なのだと。 「……俺は」  ようやく、ゆーちゃんが口を開いた。緊張を誤魔化そうと、唾を飲み込む。  どんな結果でも、私は受け入れる。  何もしないよりは、ずっと良い。想いを隠し続ける苦しさを、嫌というほど知ってるんだから。
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