大人になる前にしたいこと

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大人になる前にしたいこと

「あと五分だね」 「何がだよ」 「大人になるまで」 「俺まだ誕生日じゃねーし」 「あ、そっか。じゃあ、私が一歳年上だね!」 「たった一日差じゃねーか」 「たった一日、されど一日だよ。その間は私を姉と敬いなさい」 「やだ」 「あー、そういうこと言う? 年上を敬う心がないわけ?」 「そもそも姉弟じゃねーし」 「幼馴染も似たようなもんでしょ」 「いや似てねーだろ」 「血の繋がりって話じゃないよ。距離感って意味」 「あぁ……まぁ、確かに?」 「何で疑問形?」 「何でって、それは……別に」  友達以上、恋人未満。俺とコイツの関係を一言で表すなら、それだろう。  でも、何でか、それを口にしようとすると妙な気持ちになる。  何というか、口にしたら、ここで止まってしまうんじゃないかって。 (――いやいや、何だよそれっ!)  止まるって何? コイツとの関係?  別によくね? ずっとこの関係で上手くいってんだし、何をかき回す必要があるんだよ。  そうだ、変わる必要なんてない……はずだ。 「……ゆーちゃんって、すぐに自分の気持ちを誤魔化そうとするよね」 「どういう意味だよ? 俺の気持ちとか分かるわけ?」 「わっかんなーい」 「うわ何かムカつく」 「でも、ゆーちゃんが自分の気持ちを誤魔化してるってのは分かる」 「証拠でもあんのかよ」 「耳触ってる。昔からの癖だよ」  コイツに指摘されて、耳にある指の感触に気付いた。慌てて引き離す。 「で、何の用だよ。わざわざ呼び出して」  とりあえず、話をすり替えることにした。 「……ねぇ、ゆーちゃん」 「何だよ」 「ずっとこのままって、キツくない?」 「だから何が」 「私たちの関係」  全然すり替わってなかった。マジかよ。 「漫画とかドラマだとよくある設定だけど、現実だと何か変じゃない? 家族でも恋人でもない男女が、こんな風に互いの家を我が物顔で出入りするなんて」 「……別に」 「やっぱり! ゆーちゃんも変だって思ってる!」 「はっ!? 何でだよっ?」 「だって頭ポリポリかいてるもん。図星って時の癖」 「…………」 「だからさ、この際、はっきりさせておきたいんだ。大人になる前に」 「はっきりって……」 「私は好きだよ。男の人として」
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