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8月28日
今日もあまり暑くない。
ぼくは一二時五〇分に家を出て、昨日の空き地へ向かった。
桃色の髪の少年ホープは、絶対に普通の人間じゃない。超能力者? いやそもそも人間ですらないかもしれない。幽霊? 宇宙人?
空き地にホープの姿はなかった。まだ早かったかなと思った直後、「やあ」と中性的な声がした。
「来てくれたんだね」ホープはすぐ後ろにいた。昨日と同じ服装だ。「アイスは大丈夫だった?」
「ちょっと溶けてた」
ぼくとホープは照れたように笑った。
「キミ、名前は」
「ダイチ」
「ダイチか。よろしく」
「よろしく、ホープ」
ぼくとホープは左手で握手した(ぼくは右利きだけれど、ホープが先に左手を出したからだ)。
「ダイチ、オレがキミに来てほしいって頼んだ理由は二つあるんだ」ホープは左手の指を二本立てた。「一つ。オレはこの世界とは異なる世界の住民で、様々な世界を一人旅している。ここには昨日の朝来たんだ。同世代くらいの子と喋りたかった」
「サラッと凄い事言ったね。異世界?」
「信じて貰うのは難しいかな」
「信じるよ。いきなり消えたり現れたり出来る桃色の髪の人間、この世界にはいないと思うから」
「そうか」ホープは微笑んだ。「もう一つ。どういうわけかこの街の人間のほとんどが、オレの姿も声も認識出来ない」
「え、そうなの?」
「ああ。それでちょっと困っていたんだけど、そんな時、認識出来るらしいキミが通り掛かった。これは是非、仲良くなりたいなって」
だから昨日、見えるか聞こえるかと尋ねてきたのか。
「ダイチ。良かったら、この街を案内してくれないかな。オレの姿は周りに認識されないわけだから、ちょっとやり辛いだろうけど」
「構わないけれど、これといったものは何もないよ」
「そうか? 昨日、自分でもある程度この辺りを散策したんだけど、沢山の店や高い建物を見掛けたぞ。夜になっても開いている所も多いし、オレの故郷と割と似ているみたいだけど、逆に違いもあるんじゃないかなって気になるんだ」
「じゃあ、駅前に行こうか」
「ああ!」
ぼくとホープは商店街を中心に見て回った。ホープの話だと、彼の世界にもスーパーやコンビニ、ドラッグストアや本屋などはあるものの、店員はロボットが多いらしい。
何日も着替えていないと言うホープに、ぼくは新しい服と下着を買ってプレゼントした。ホープはとっても喜んでくれた。
「ホープってさ、何歳なの?」商店街の外れの小さな公園のベンチで、ぼくはホープに尋ねた。
「四五だよ」
予想外の返事に、ぼくは目を丸くした。
「え、ダイチは?」
「先月一八になった。高校三年」
「一八?」ホープもぼくと同じ反応を見せた。「オレの世界ではちびっ子だよ! あと高校ってのは学校の種類かな」
どうやら、この世界とホープの世界には、大小様々な違いがあるらしい。
その後もぼくとホープは、互いの世界の相違について、陽が落ちるまで語り合った。たとえばスマホ。ホープの世界にもよく似た機器はあるものの、時代遅れらしい。
「ホープは何処で寝泊りしてるの?」例の空き地に戻ると、ぼくは尋ねた。
「ここからちょっと離れたアパートに空き部屋があるから、勝手に使わせて貰ってるよ。この空き地は周波数が合うらしくって、瞬間移動がしやすいんだ」
ぼくの家に泊まりにおいでよ──喉まで出かかったその言葉は、結局引っ込んでしまった。家族にホープの姿は恐らく認識出来ない。だからこそ色々と面倒な事になりそうだからだ。
「明日も会うのは難しいかな」ホープはちょっと寂しそうに言った。「夏休みとはいえ、キミも勉強とか、他の用事もあるだろうし」
「全然。暇を持て余していたんだ。卒業後の進路は専門学校で、手続きとちょっとした面接があるくらいだから、塾通いとかもしてないし。一〇半時くらいでどうかな」
ホープの顔に笑みが広がった。
「じゃあまた明日」ぼくは右手を上げた。
「ああ、また明日。貰った服、着て来るから!」
ホープは服の入った袋を持つ左手を何回か振ると、一瞬で消えた。
明日は何処に行こう。一緒に何か食べたいな。
そんな事ばかり考えていたので、この日もなかなか寝付けなかった。
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