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8月30日
今日は朝からそれなりに蒸し暑い。最高気温も三〇度を超えるらしい。ホープが体調を崩さないように気を付けよう。
「今日は暑くなるからさ、アイス食べよう」
「もう既に暑いよ」
「本来だったら、もっと容赦なく暑くなるんだよ」
「うわあ……」
一昨日と同じように駅前の商店街のコンビニに行き、二人分のバニラアイスクリームと野菜サンドイッチ、ペットボトルの麦茶を買い、店の横で立ったまま食べた。
「サンドイッチも美味しいけど、このアイス、最高だな!」
「ホープは甘いものが大好きなの?」
「好きだよ! それに最近なかなか食べられなかったから」
食事の後は商店街を自宅とは逆方向に出て、緩やかな坂道を上った。
「昨日より歩くから、辛くなったら言ってね」
「ああ。いざとなったらダイチにおぶって貰うから」ホープはニヤリと笑った。
「そうなったら共倒れだ」ぼくは半分本気で言った。
やがて見えてきた四階建ての校舎を、ぼくは指差した。「あれがぼくの通っている高校」
「へえ、あれが!」
ホープが走り出したので、ぼくも続いた。
「夏休み、明日までなんだっけ」短距離走の練習をする陸上部員を見やりながらホープが言った。
「そう、残念ながら」
「学校、嫌なのか?」
「好きではないよ。まあ、小、中学時代よりはマシ。あの頃は思い出したくもない」
いじめられていたから、という言葉は続けなかったけれど、ホープは何となく察してくれたようで、それ以上は尋ねられなかった。
ぼくとホープは裏門から敷地内に入り、ゆっくり一周した。幸い、誰かとすれ違う事はなかったし、校庭にいる運動部員たちも、ぼくの事はほとんど気に留めていなかった。
「ホープが通っていた学校と似てる?」
「全然。ここはちょっと狭いし、校舎も小さめだ。でも監視ロボはいないし、凝った植木や花壇があるのはいいね」
「監視ロボ? 生徒がサボらないための?」
「そんなところ」ホープはちょっとぶっきらぼうに答えた。
帰る頃には少し気温が下がり、汗をかいた体に爽やかな風が心地よかった。
「学校始まってからもさ、会おうよ」
空になった麦茶のペットボトルの底を掌に打ち付けながら、ぼくはそれが当然のように言った。けれどホープは、少し困ったような表情を見せた。
「約束を破るんじゃないかって思ってる? 大丈夫。部活は秋で引退だし、友達と寄り道も滅多にしないし。……ホープ?」
「あ、ああ、別に信用していないわけじゃないんだ……」
何だか様子がおかしい。もしかしてぼくと会うのに飽きたとか? ……いや、何か違う気がする。何だろう、この胸騒ぎは。
「明日さ、ぼくの家に来なよ」ぼくは不安を押しのけるように言った。
「ダイチの家?」
「うん。両親は仕事だし、姉も五時くらいまでバイトだから誰もいない。……どう?」
「……うん、行く」ホープの顔に笑みが戻った。
空き地で別れると、ぼくは走って家まで戻った。ホープをもてなすためのお菓子や、プレゼント出来る物を用意しておかなきゃと考えたら、早く行動に移したくなったからだ。
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