#1 朱

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#1 朱

血の海で溺れていたい。 「良い…匂い」 ああ。本当に良い匂いがする。 微かに漂ってくるは、人間の血の匂い。こいつは、手負いか。もしかすると、他に誰か同じ種族のがいるのかもしれない。先に盗られてたまるか。 おれは急いだ。走って、走りまくってようやく強い匂いを嗅ぎつけた。 「…見つけた」 林の中で命が燃え尽きようとしていた。 近づいても、横たわるこの青年にはもう危機感などどうでもいいらしい。仰向けのまま、死戦期呼吸を繰り返していた。 「はあっは、はあッ…あ、はあ」 もはや死にゆく運命が見える。儚い。 何をしようと、もう生きながらえることは無い。そう思うと、どうしてこんなにも胸が痛むのだろう。 それでもおれは、喉の渇きには耐えられず、彼の首元に手を掛ける。謝ることなどないのに、こうべを垂れてしまう。 「すまない…」 そうして喉元に噛み付こうとする。 ──と。 「…おねがい、だ…!」 荒い呼吸を繰り返しながら、彼はおれに必死で訴えてくる。 殺すな。まだ生きていたい。やめてくれ。 それほどまでに死への恐怖か、生への執着があるのかと思うと、やるせない気持ちになる。 本当にすまない。おれは、こうするしかないのだから。
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