#1 朱

2/5
前へ
/9ページ
次へ
弱く抵抗する彼の手を払って、首元に噛み付く。喉元ではなかったのは、何故だろうか。まだ呼吸をしていてほしいとでも思ったのか。 「あ、…うぁ…はあ、…あぁ」 吸われる感覚はあるのだろう、彼が喘ぎ声を洩らす。おれは、何故かその声にどぎまぎした。 ──何だ、これ。 今までには無い、独特な感情がおれの中を支配する。どうしてか、興奮する。 でも、もうすぐ終わってしまう。 足りない。これじゃ足りない。 もっと──頂戴。 おれは、自分で無意識的に呪文を唱えていた。 『生き返り』の呪文。これは本来人間ではなく、仲間のうちで使うもの。けれど、さっき血を吸った時に、おれの血を混ぜて送り返したから、少しは【仲間】として成り立ってはいるだろうと考えた。 どうか、どうか生きてくれ。 「かはっ…」 彼が吐血する。苦しそうな呼吸はいくらか落ち着いてきているため、どうにかなったようだ。 やっぱり。見ていると己の性に逆らえない。 我慢できずにそれを舐めとる。そして、そのまま彼の口内へ舌を突っ込んだ。血の味が、おれの中を満たす。 …美味い。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加