1人が本棚に入れています
本棚に追加
#1 朱
血の海で溺れていたい。
「良い…匂い」
ああ。本当に良い匂いがする。
微かに漂ってくるは、人間の血の匂い。こいつは、手負いか。もしかすると、他に誰か同じ種族のがいるのかもしれない。先に盗られてたまるか。
おれは急いだ。走って、走りまくってようやく強い匂いを嗅ぎつけた。
「…見つけた」
林の中で命が燃え尽きようとしていた。
近づいても、横たわるこの青年にはもう危機感などどうでもいいらしい。仰向けのまま、死戦期呼吸を繰り返していた。
「はあっは、はあッ…あ、はあ」
もはや死にゆく運命が見える。儚い。
何をしようと、もう生きながらえることは無い。そう思うと、どうしてこんなにも胸が痛むのだろう。
それでもおれは、喉の渇きには耐えられず、彼の首元に手を掛ける。謝ることなどないのに、こうべを垂れてしまう。
「すまない…」
そうして喉元に噛み付こうとする。
──と。
「…おねがい、だ…!」
荒い呼吸を繰り返しながら、彼はおれに必死で訴えてくる。
殺すな。まだ生きていたい。やめてくれ。
それほどまでに死への恐怖か、生への執着があるのかと思うと、やるせない気持ちになる。
本当にすまない。おれは、こうするしかないのだから。
最初のコメントを投稿しよう!