22人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
一週間程前の那月の誕生日は、メッセージでのやり取りを少ししただけで会ったりはしなかった。那月は、普段忙しい両親が時間を作ってくれて外食するのだと嬉しそうに話していて、そんな時間を邪魔するわけにもいかず、渡す機会がないまま今日になったのだ。
「貰っていいの?」
「うん」
「ありがとう。開けていい?」
理央が頷くと那月は器用に包装を取っていった。ビリビリに破いたりしないのが那月らしいと思いながら、解かれたリボンが那月の膝に落ちるのを眺める。蓋を開けると箱の中でシルバーが光った。
「これ、ネックレス?」
小さなストーンが付いたシンプルなデザインのネックレスだ。上品な見た目が好きで理央も同じものを身につけている。
「どんなのが好きかわかんなくて、俺と同じのにしたんだけど」
そう言って理央は自分の首元からチェーンを引っ張り出して同じように光るものを見せた。
「お揃いなの?」
那月は少し驚いた様子で理央のネックレスを見つめた。言い訳のように言ったが、本当はお揃いを身につけてほしくて選んだのだ。決して安くはないが、来月にはバイト代も入るしこれくらい奮発していいだろう。
「秋学期から、忙しくなるだろう? 生徒会のこととか、受験勉強とか……」
自分で口に出しておきながら、理央は那月と共に過ごす高校生活の短さに気づいた。秋が来て冬が来て、春が来たらまた新しい年度が始まる。卒業まで一年半。
「だから会えなくても、それを那月が持ってくれてたら嬉しいんだ。また来年もこうやって隣にいたいから」
思わず出てきたのはそんな言葉だった。来年だけじゃない。再来年もその先も、卒業したって大人になったって、隣には那月にいてほしい。
那月は理央の言葉を真剣に聞いていた。きっと気持ちなんて見透かされている。だからこんな時も那月は欲しい言葉をくれる。
「ずっと一緒にいてね」
少しだけ恥ずかしそうに笑ってそう言う。だけどその言葉は理央を安心させる。那月も同じ気持ちでいてくれるなら不思議と大丈夫だと思えるのだ。
那月は照れ隠しのように手元のネックレスを指で撫でると柔らかく微笑んだ。
「これ付けて」
そう言って後ろを向くので、ネックレスを受け取り那月の首の後ろで金具を止める。那月が付けると控えめに光るストーンが洗練された雰囲気を出して、見惚れてしまうほどに印象的だ。
「似合う?」
「うん。似合うよ」
無邪気に笑う那月に理央もつられて笑った。同じ物を身につけさせて、那月を少しずつ染めてしまいたい。本当はそんな下心もあるが、今だけは目をつぶった。
「理央くん。ありがとう」
囁くような那月の声が理央の耳に甘く響いた。首元で光るストーンのせいか、那月が少しだけ大人っぽく見えた。
最初のコメントを投稿しよう!