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那月は転んで咳込みながらも勇太を睨みつけた。明らかに力では勝てないことがわかっているのに、それでも引き下がらない那月に勇太はため息をつくと、那月のネクタイを引っ張って顔を一発殴った。
骨のぶつかる音がして鈍い痛みが広がっていく。那月は生まれて初めて暴力を振るわれた。頭の中が痛みと恐怖で支配され、体が強張って手足が動かなくなる。
不良たちは殴られた那月を見て笑い声をあげた。その声を聞きながら那月は唇を噛んだ。顔を上げようとしたら鼻が熱くなって、殴られた衝撃で鼻血が出たのだと気づいた。制服のワイシャツに血が滲んでいく。何か言い返そうとしたが、口の中が切れていて痛みが走り声を出せなかった。
鼻と口から血を流している状況を受け止めきれなくて、那月は立ち上がることができなくなった。一発殴られただけでこの様だ。猫一匹助けることができない自分が情けなくて、涙が滲んだ。一人でこの状況を変えられないことを痛いほど思い知らされ、誰かが来てくれることを望むことしかできなかった。
那月の心が折れたその時、地面を蹴る音が聞こえてきた。
「お前ら!」
公園に不良たちとは違う怒鳴り声が響いた。顔を上げると、そこにいたのは思いも寄らない人物だった。
「理央が来たぞ」
誰かがそう言った。そこには那月と同じ制服を着た男子が立っていた。
彼は同じ高校に通う横山理央だ。話したことはないが顔くらいは那月も知っている。明るい髪色にピアスが特徴的で、学校では不良生徒だと言われている。
那月はなぜ理央が来たのかわからず混乱しながらも、彼から目が離せなかった。
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