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◇
目を覚ますと那月はベッドに寝ていた。蛍光灯の光が眩しくて目を上手く開けられない。
「那月、気がついた?」
声がする方を見ると、そこには従兄弟の伊月がいた。伊月は那月と少し歳が離れているが、昔から面倒を見てくれている兄のような存在だ。那月が高校生になった今でもよく世話になっている。
伊月の顔を見て、那月はほっと息を吐いた。
「お兄ちゃん……」
「もう大丈夫だよ」
声を聞いて安心したのか、伊月はそう言って那月の頭を撫でた。
ここは病院だと気づき、なぜ自分がここにいるのかだんだんと思い出してきた那月は、猫と理央のことが気になった。
「猫は? 横山くんもどうなったの?」
「猫は保護されたよ。横山くんってのは?」
「俺と同じ高校の……」
「ああ、あの子も手当てされてたよ。友達?」
「いや、そうじゃないんだけど……」
理央とは友達ではない。自分が一方的に知っているだけだ。今日だってたまたま居合わせただけで言葉も交わしていない。
思い返せば、理央の登場はヒーローのようだった。それに対して自分は猫を助けられず、助けを待つだけの情けない姿を見られてしまい恥ずかしく思う。
あの後のことは覚えていない。警察が来たはずだが、不良たちはどうなったのだろう。那月は公園での出来事を思い出そうとしたが、意識がはっきりしてくると殴られた頬が再び痛み出した。
「痛い?」
顔を歪める那月を見て、伊月が心配そうな顔をして聞いてきた。
「ちょっと痛い。……まだ帰れない?」
「もう帰ろうか。看護師さん呼んでくるから、少し待っててね」
「うん」
伊月が席を立ち、那月は一人で残される。寝返りを打とうとしたら、蹴られた腹が痛んで涙がこぼれた。
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