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理央と顔を合わせるのはあの日振りで、何を言われるのかわからなくて緊張する。那月は何もできなかったことを謝ろうと思っていたが、先に口を開いたのは理央の方だった。
「ごめん」
「なんで横山くんが謝るの?」
「怪我しただろ」
「横山くんのせいじゃないよ」
「俺のことに巻き込まれたんだから、俺にも責任あるだろ」
理央は不良として有名ではあるが、彼のことを本気で憎む人を校内では見たことがなかった。教師たちは頭を抱えることはあっても、理央に対して一定の信頼はあるようで、那月はその理由がよくわかる気がした。
「横山くん、俺、何もできなくてごめん……」
那月は最初から自分一人では何もできないことはわかりきっていた。それでも痛感してしまうと酷く落ち込んだ。学校を休んでいる間も家でそのことばかり考えていたのだ。
情けなくて俯いていると、理央が近づいてきてそっと那月の頬に触れてきた。那月の頬はすでに腫れが引いて痛みはないが、まだ少し痕が残っている。突然触れられたことに驚いて那月が固まっていると、理央はその痕を指で撫でながら呟いた。
「痛かったよな」
それこそ理央のせいではないというのに、那月はすぐにそう言えなかった。理央の触れ方が優しくて、何と言えばいいのかわからなかった。理央は人が傷つけられるのを見て悲しむことができるのだと思ったら、那月はなぜか泣きたくなった。
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