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「もう痛みはないよ」
「そっか」
理央の手が離れて温もりが消えていく。那月はそれを寂しく思った。
「猫、大丈夫だった?」
那月はもう一つ気になっていた猫のことを聞いた。
「ああ。怪我してたけど、病院で薬もらったし、普通にご飯も食べるよ」
「そっか……。横山くんの猫だったんだね」
「うん。アキっていうんだ。弟が拾ってきたんだよ」
「弟がいるの?」
「中学生のな」
理央は穏やかにしゃべる。不良たちに怒鳴っていた時とは大違いだ。初めて理央と面と向かって話したが、自分と正反対だと思っていた理央とここまで話せることが嬉しかった。
「アキのこと守ってくれてありがとな」
「何もできなかったよ」
「いや、お前がいてくれて助かったんだよ。もしかしたら殺されてたかもしれないし」
理央にそう言われて、那月は虐められていたアキの姿を思い出した。弱々しくて、痛々しくて、思い出すだけで胸が痛む。あの時、自分が通りかからなかったらどうなっていたのだろうと思うと怖くなる。
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