10 盛夏

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10 盛夏

 真っ青な空に蝉の鳴き声が吸い込まれていく。遠くに見える入道雲が夏の景色を目に焼き付ける。あの雲の向こうはいったいどこまで続いているのだろう。小さい頃はよく空を見上げては、遠くの景色に想いを馳せたものだ。  そんなことを思い出しながら、理央は八月の炎天下をどこか懐かしい気持ちで歩いていた。  夏休みに入って二週間、同級生たちは部活の合宿や大会に参加したり、受験に備えて夏期講習を受けたりしている。那月も講習や生徒会の用事でまだ毎日のように学校に通っていると電話で話していた。  理央はというと、ここ数日は父親の知り合いのラーメン屋でバイトに精を出していた。小さい頃から知っている店で長期休みにたびたび手伝っており、体力的にも問題はないし、何より高校生の理央にとって稼ぎを得られるのは魅力的だった。  忙しくも充実した毎日を過ごしているが、いつもよりも早く感じる時間の流れに寂しさを覚えるのも夏休みで、数日前、理央がそんな心境を電話でこぼすと、那月からそれなら一緒に水族館へ行こうと言われたのだ。なぜ水族館なのかはわからなかったが、屋内で涼しく過ごせるだろうし、何より、那月と二人で過ごしたかった理央は快く承諾した。  そしてお互いの休みを合わせ、今日が約束のその日なのだが、午前十一時に那月を迎えに行く約束をしていたのに、気が急いてしまって二十分早く着いてしまった。  那月の家に来るのはこれで二回目だ。相変わらず立派で、庭には鮮やかな花が咲いている。インターホンを鳴らしてもいいか悩んだが、この静かな住宅街で立ち尽くしているのも不審者に思われそうで、理央は意を決してボタンを押した。
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