10 盛夏

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 すぐにドアの向こうから足音が聞こえてきた。早く那月の顔を見たい。会えない間もメッセージや電話でのやり取りはしていたが、それだけでは物足りなかった。那月も同じ気持ちだったりしないだろうか。そんな想像をしては緩みそうな頬を引き締めていたが、淡い期待はすぐに打ち砕かれた。 「ああ、横山くん。いらっしゃい」  出迎えたのは伊月だった。那月が出てくるものだと思っていた理央は言葉に詰まってしまう。 「……こんにちは」 「どうぞ上がって」  理央は伊月に爽やかな笑顔を向けられ謎の敗北感を感じながら玄関に入った。なぜ那月の家に行くといつも伊月がいるのだ。そんなことを思いながら、伊月の背中を見つめて廊下を進んだ。  リビングはシンプルでナチュラルな家具で揃えられていた。派手ではないのに一つ一つに高級感がある。理央はソファに座り、落ち着かない気持ちで膝を摩った。 「那月はまだ準備してるからもう少し待ってね」  そう言いながら、なぜか伊月はローテーブルを挟んで向かい合って座ってきた。面接でも始まるのかと思う雰囲気だが、理央にとって伊月は面接官よりも厄介だ。伊月と二人きりになるくらいならもう少し家の前で待てばよかったと後悔した。 「那月と付き合ってるんだってね」  単刀直入にそう言われ、理央は覚悟を決めた。 「はい」 「那月のこと大事にしてね」 「もちろんです」  身構えた理央だったが、伊月の態度が普通で拍子抜けする。那月をどうするつもりなのだとか、もっと問い詰められるのだと思っていた。伊月がそこまで意地の悪い人ではないことはわかっているが、どうしても一方的に警戒してしまう。そんな自分が子供っぽく思えて、もう少し心を開いて伊月と向き合わなければと心の中で反省する。
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