10 盛夏

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 しかし、理央の反省とは逆に、伊月は何が面白いのか口元に笑みを浮かべたまま話しかけてくる。 「もう那月とキスした?」 「は!? いや、その……」 「ごめんごめん。答えなくていいよ」  伊月は理央の反応を見て声をあげて笑った。やはりこの人のことは苦手だ。先程までの反省は跡形もなく消え去る。壁の時計をチラリと見るが、針は先程からまだ五分も進んでいなかった。 「どっちが先に好きって言ったの?」 「……那月です」  伊月のペースにのまれそうになるのを理央はゆっくりと息をして何とか堪える。試されているみたいで悔しいが、簡単に伊月の思い通りになるのは嫌だ。小さな反抗心を胸に秘め、理央はせっかく伊月と二人きりならと、ずっと心に引っかかっていた一つの疑問を投げかけることにした。 「あの、伊月さん。なんで俺にあんな話したんですか」 「あんな話って?」 「その、那月が伊月さんのことを好きだっていう……」  初めて伊月に会ったその日に告げられた事実はしばらく理央を悩ませた。那月の従兄弟への恋心は理央に嫉妬を覚えさせ、結果的には那月との関係を進めるきっかけになったのだが、それでも伊月の本心はわからないままだった。 「知りたくなかった?」 「いや、そうじゃないんですけど。初対面だったし、いろいろと驚いたというか」  あの時は正直、牽制されたのかと思った。ただの考えすぎなのだが、伊月の腹の底が見えないせいか、余計な想像までしてしまう。しかし、そんなことまで伊月にはお見通しのようだった。 「もしかして、俺も那月のことが好きなんじゃないかって思ってる?」 「いや、なんていうか……」 「大丈夫だよ。恋愛感情なんてないから。年下の従兄弟にそんなこと思うわけないよ」  伊月に丁寧に否定され、何を疑っていたのかと途端に恥ずかしくなる。自分はもっと冷静な人間だと思っていたが、那月のことになるとどうしても情けない面が出てしまう。 「すみません。忘れてください」  理央の声は弱々しく響き、気まずい沈黙に包まれる。なぜか伊月も黙り込んでしまい、こんなことなら伊月にくだらないことを聞かれ続ける方がましだったのかもしれないと後悔した。
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