10 盛夏

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  ◇    午後はイルカのショーを見たり、一緒に土産物を選んだりした。笑ったり驚いたり、変化する那月の表情を眺めながら、理央は何度か那月に触れた。手を握って髪を撫でて、人がいなかったらキスしてたなんて思いながら、那月が受け入れてくれることに満足していた。  しかし楽しい時間が過ぎるのはあっという間だ。まだ帰りたくない気持ちで、大きな水槽の前のベンチに二人並んで座っていた。目の前では大きなサメがゆっくりと泳いでいる。それを眺めていると、時間の流れまでゆっくりになった気分だ。 「ねぇ、写真撮ろう」  那月はスマホのカメラをインカメにして二人が画面に収まるように腕を伸ばした。しかし、うまく収まらないのか何度も角度を変えている。理央は画面に収まるよう那月の肩を引き寄せた。うまく収まり那月がシャッターを押すと二人の姿がフォルダに保存される。そういえばこうやって写真を撮るのは初めてだとか思っていたら、そのまま那月が肩に寄りかかってきた。  静かな時間の中でただ那月の温もりを感じる。肩を抱く腕を前に回して那月の手を握るとすぐに那月も握り返してくれた。那月は何も言わない。今こうしていられる時間を大切に味わうように寄り添っている。 「なあ、那月」 「何?」 「渡したいものがあるんだ。……誕生日プレゼント。遅くなっちゃったけど」  そう言って、理央は用意していたプレゼントを取り出した。両手に収まる大きさの箱は渡すタイミングを見計らってずっとバッグの底にひそませていた。包装紙とリボンで包まれた箱を、体を離した那月の前に差し出す。
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