1 春の夜の公園にて

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1 春の夜の公園にて

 目の前で桜の花びらがひらひらと落ちていくのを目で追えば、アスファルトを埋め尽くす絨毯の一部になった。四月も後半になり、満開のピークがすぎた桜の木には緑色が目立つようになっていた。  高校二年生の佐野那月(さのなつき)は生徒会の仕事を終えて帰宅している途中だった。時刻は夜の七時を過ぎ、冬に比べて日が長くなってきたとはいえ、辺りはすでに暗くなっていた。  那月は昔から優等生だと言われてきた。成績は良く、校則は破らず、問題も起こさない。これらは意識してやっているわけではなく、勉強は嫌いじゃないし、こだわりはないから校則を破る必要もなければ、今まで危険なことに心が魅かれることもなかったのだ。そんな那月は推薦される形で昨年の秋から生徒会役員になった。  これまで成績上位に入って注目されたり、クラス委員長に選ばれたりするたびに、自分の立場が作られていくような不思議な感覚に陥っていたが、生徒会役員になったことで完全に足元を固められた気がしていた。少なくとも、高校生でいる間は優等生でいなければならない。特別プレッシャーなどはないが、とうとう来るところまで来てしまったような気持ちでいた。
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