1 家の外壁塗装

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1 家の外壁塗装

「んのやろう……何がつい出来心で、よ!」 バスを降りた(しおり)は、陽に焼けたアスファルトを勢いよく歩きだした。 八月の真昼。 いらいらしながら歩く家路は、より熱い。 薄っぺらいサンダルの底からひりつく熱が伝わってくる。 大学入学と共にできた彼氏に、浮気された。一年と少し付き合ってもぴんと来ない男だったが、このオチは予想していなかった。 好きな人に裏切られて悲しいというより、プライドが傷ついて悔しい。 多分、お互い、その程度の関係だったのだ。 「早く帰ってシャワー……炭酸飲んで、アイス食べて、クーラーに浸って、そうだ! 前から欲しいと思ってた洋服ポチろう。今日は死ぬほど自分を甘やかそう」 ぐんぐん道を進む。 この辺りは住宅街だ。戸建ての一軒家が多い。 外壁塗装の工事業者がセールスに回ったらしく、鉄骨の足場に囲まれたり、工事用のメッシュシートで簀巻き状態になっている家が目立つ。 ようやく着いた自分の家も、足場とメッシュシートに囲まれていた。 「……これ、どうやって家ん中入るのよ」 養生シートというのだろうか。 玄関扉は半透明のビニールで覆われ、開けられそうになかった。 日に焼けた工事の担当者が「すいません」と寄って来る。養生シートを少し剥がしてもらって家に入る。 家の中はいつもより薄暗かった。 窓という窓に養生シートが貼られて、夏の光りが遮られている。 庭に面したリビングの窓に至っては雨戸が閉められていた。 「ねー、ママン、家の中暗くない?」 「窓ガラスを保護するために一応雨戸閉めなきゃだもん、仕方ないわ」
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