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昼過ぎ、特に当たりもないまま、タバコを咥えて、三つ並んだボタンを押していた時だった。
「トーヤじゃん。おひさ!」
「うわ…」
出た、と思った。
俺の隣にちょこんと座り、親しげに話しかけてくる赤毛の男。ナツだ。
ナツは満面の笑みを浮かべ、店内のBGMに負けないように大きな声を出す。
「ヒマなの!?」
「ヒマじゃない!!」
「ウソつき」
「うるせぇよ!」
少なくとも俺の手も目も今は忙しい。
「お前こそなんだよ?ヒマか?」
「デートしよう!」
「は!?」
「デート!!」
俺はナツの顔を見た。ニヒヒと顔全体で笑うナツに、欲求不満な俺はドキッとした。
「入ったよ」
ナツがサッと手を伸ばし、ろくに確認もせずボタンをタタタッと叩いた。7が三つ揃って、派手な音楽が鳴り出す。
呆然とする俺の口から、吸いかけのタバコを奪って咥えたナツが、また言った。
「デートしよ?」
俺は目眩がした。
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