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別にナツのことが好きだとかは特に思わない。まあ、何度か体を重ねて、多少の情はうつってるのは認める。しばらく顔を見ないと、死んだんじゃないかと心配にもなる。
でも、ウサギを取るのは半ば意地だ。こうなったら絶対取ってやる、というくらいに注ぎ込んでいる。
そしてその時はきた。
ガコン、とウサギが転がった。下方の出口から可愛らしい顔を覗かせている。
「うおおぅ!取れたぞ、ナツ!!」
思わず、ハイタッチでもしようかと両手をあげる。
ナツはいなかった。
「あれ?」
人に可愛くおねだりしておいて、運命の瞬間に立ち会わないなんてヤツがあるか!?
そもそもテメェが取れって言ったんだろーがバーカ!!
と、そこにいないナツに心の中で毒付いて、俺はウサギを抱えて歩き出した。
もしかして、トイレにでも行ったのかもしれない。
幸いトイレは、ゲーセンのすぐ横にあって、俺はその男子トイレを覗いた。
「ナツー?」
いなかった。
「あの野郎…どこ行きやがったんだ?」
あまり人はいないとはいえ、ウサギを抱えて歩くのは結構恥ずかしかった。
もう一度ゲーセンに戻る。すると、何食わぬ顔で近くのベンチに座るナツがいた。
「あ!お前、どこ行ってたんだよ?」
ナツはニコリと笑って答える。
「ナイショ」
「はあ?」
「そんなことより、次、あっちのカフェでランチしようぜ」
この時点で帰ればよかったのだ。
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