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「このっ、待てよ!!」
「アッハハ!!捕まえてみろよ!?」
安い挑発だ。でも、俺は諦めない。
今日こそはこの、猫みたいに逃げ回るナツを捕まえて見せる。
俺は走った。室内は狭い。たった五歩ほどの距離だ。腕を伸ばす。指先が、ナツの腕を掠めた。
その瞬間、目の前のナツが消えた。ヤバいと思って急いで後ろへ一歩下がる。が、上体を低くしたナツの伸ばした足に躓いて尻餅をついてしまった。
「イッテ…」
呻き声を上げながら、それでもすぐに立ち上がる。
獣を前にして、動きを止めてはいけない。
顔を上げた。でも、ナツはもう目の前にはいない。
「おへのはひっ!!」
多分アイスを口に咥えているんだろう。変な声が背後から聞こえた。振り返るまえに、腕を取られて捻られる。そのままフローリングの床に押し倒され、首の後ろをグッと踏まれた。
「ブフッ!!」
顎をしたたかに打ち付け、ジーンとした痛みが襲ってきた。
「遅いぜ、トーヤ」
「お前がバケモン並なだけだろ」
「まあ、それは否定しない」
悲しい。
今感じている痛みだけじゃない。
出会ってからずっと、俺はこの赤い髪の頭の悪そうな顔をした男に(しかも自分より10センチ以上小さい)勝てない。
それが悔しくて悲しい。
押し倒されたまま、首を回して後ろを見遣る。
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