赤い髪の死神

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 フッと背中が軽くなる。男が膝立ちで、俺を跨いだまま見下ろしていた。  俺は身体を起こし、振り返って睨み付ける。 「不当な扱いだ」 「この世には不当なことばっかだぜ」 「そうだけど…ここは俺の家で、手当てをしたのは俺だ」 「わかったわかった、ありがとよ!」  投げやりに、面白がるように男が言った。俺は不服だ。打ち付けた顎が痛い。捻られた腕も痛い。 「礼ついでにさぁ、もういっこオレの世話焼いてくんね?」  それまでの圧倒的な支配力に、すでに思考は奪われ、抵抗や拒絶を露わにすることを忘れた。  何がダメって、その眼がダメだった。  獲物を捕らえて離さない蛇。  あるいは妖艶に誘う神話の中の淫魔。  黒く真珠のようにキラリと光を反射したその眼に、俺は一切の動きを封じられてしまった。 「んむっ!?」  柔らかく熱い吐息を吐き出す唇が、俺の唇と合わさる。ヌルリと侵入した舌の艶かしさを、最近ご無沙汰だった俺はされるがままに味わった。  相手が男がであるとか、ゴミ捨て場から拾ってきたとか、血だらけだったとか、そんな事を気にする余裕もないほど上手かった。 「ぁ、は…悪りぃな……今さぁ…仕事の後で我慢できねぇんだ……」  口角を上げて妖しく笑う男は、荒い呼吸を繰り返しながら俺のデニムに手を掛ける。
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