頼まれた王様

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頼まれた王様

 異世界からこんにちワン 夜帝決定戦編  いきなり土下座をしたジョエルに、学園国家アカデミーの国王にして救星の勇者でもあったジョナサン・エルネストは酷く面食らっていた。  珍しい、馴染みの人間がわざわざ王宮に謁見すると聞いて楽しみにしていたのだった。  おージョエルじゃねえか!アルテミシアは元気か?!ペンテシレアは大きくなったのか?写真見せてくれよ携帯の。  そう言おうと思っていた。  会って早々土下座されるとは思っていなかった。 「困ってんです王様!どうか!店を!勇者ジョナサンをお守りください!」  名前何とかしろ。  すっかり忘れてたよ。お前の店がホストクラブだってこと。 「助けてって、何があったんだ?」 「俺達は、革命の時に王様に真っ先についていきました。お陰様で、俺達の店はアカデミーの商業区で最初の店になり、店はショボいんですが、店の名前のお陰で俺達は結構やれてました。王様とのご縁がきっかけで、俺にも可愛い嫁さんが出来て、ああペンペン。ペンペンも可愛くって!この前一緒にお風呂に入って!パパーってペンペンが言って!ああペンペン!ペンペンンンンンンンン!」 「おい。タルカスを呼べ。この馬鹿親投獄してやれ」  王様が誰かに言った。 「待って!待ってください!ああインククリムゾン最高でした!王様はパクってません!」 「うん。それでどうしたジョエル?俺に任せろ。何でも言ってくれ」  投獄する気満々だった国王犬は、急に前言を翻していた。 「実は、俺の店は。今大資本に飲まれようとしています。うちの向かいに建ったライバル店に新規の客はみんな盗られちまっています」  あー。 「前は、マルーーレディ・パピヨンだったよな?ミラージュがカジノぶっ潰したんだったな」  ルルコットのジュース事件だった。 「今回は、そんな生易しい相手じゃないんです!歓楽街、王都メゲレ区の種枯らし、今は夜の女王(マダム・ミ・ニュイ)を名乗ってます!」  ええええええええええええええ?!  そりゃあ不味い。  ジョナサンがどうにも苦手な女の名前が出てきた。 「イルゼかあ。すまん。俺は何も出来ん」 「そんなあ!何とかしてくださいよう!」 「確かに商業区ってのは、アカデミーの中でも自由経済特区だ。流石に商業区内で俺はあまり発言権がないんだ。資本主義ってのは俺にとっても難解でな?ミラージュは勉強しろって前に。うちの銀髪家庭教師は頭はいいんだが。そういやあ、あいつと会うと子作りしかしてなかった」  あん?  上から降ってきたお母さんは、幼児を抱えていて、脇にそっと立たせて深く平伏した。  幼児は親指を咥えて王様にちっちゃく手を振った。 「うおう!テミちゃん!義父さんは?」 「一頻り孫を抱いてキャーキャーし、満足して先程帰りました。お久しぶりですマスター。いえ、陛下」  現れたのは、ユノの妹分であり、魔王討伐パーティーの末裔、マリウス・ガイネウスの娘、アルテミシアだった。  すっかり綺麗になった東の大陸育ちの魔法剣士見習い、地上最強の5才児レベルの娘、アルテミシア・ガイネウスは、長い緑髪のヤンママになっていた。  あれ?そう言えば、ジョエルって源氏名なんだよな? 「なあ。改めて教えてくれる?ジョエル、本名って何だっけ?」 「ええ?!いや、何だったっけかなー?」  店のマスターはすっとぼけようとした。 「主人に代わってお応えします。主人の本名はジェイデン。ジェイデン・ホールズワースです。彼の妻になり、私はアルテミシア・ガイネウス・ホールズワースになりました」  ちょっとイラッとした。ジョエルである必要なくね?ジェイデンでいいじゃねえか。  っていうかホールズワースて。今一番イケてる名前じゃねえ?  今輸入ジャズロックで一番人気なのがソフツのバンドルズだし。  俺が出したアルバム3位だったし。  何が嫌かって2位はテスティス・インターミディエイト、って知ってる?ゴーマが出てたアルバムね?あれに未だに負けてる俺って一体。 「やめろおおおおおおお!だから内緒にしてたんだあああああああ!」  ジョエルはめっちゃ恥ずかしがっていた。 「ふーん。そうか。まあ仕方ないんじゃないか?負けて店が潰れても。アカデミーは今求人倍率が成長著しくてな?3.12倍だってさ。お前ならきっといい仕事が見つかるよ。そこの一点だけは協力する。国王のコネを大いに利用しろ」 「まさか!そんな!まだまだ新婚なんですよ俺達!テミちゃんを王様の愛人になんか出来ません!」 「誰が愛人にするっつったボケえええええええええ !アルテミシアはうちの教員やってもらおうと思ったんだが。カノンの縮地(しゅくち)肢曲(しきょく)に対応出来る人材が必要なんだ。俺にしか出来んのは流石に」  あれ?ひょっとして、アカデミーの求人倍率が異様に高いのって俺の所為?  特に王宮職員が常に人材不足だってのは気になっていた。  特に十代の女の子に働かせたい職場ランキングワースト記録ぶっちぎったのって。  この前新人職員の子が思ったよりきちんとした職場で安心しましたって言ったのってそういうこと?初勤務の前日にお父さんが泣いてたって。俺?俺の所為? 「マスターが十代の女性に手当たり次第に手を出すロリコンだというのは、ただの根も葉もない噂です。たまたまピチピチの先輩達や純真な姉様を毒牙にかけただけで」  愛人達とやりすぎてすいませんでした。  だって可愛かったんだもん。全員。 「まあいいよ。考えるよ。ところで、ペンテシレア大人しいな。ちょっと抱っこさせてくんない?いや、別にちっちゃい子なら誰でもいいって訳じゃなくて。アルテミシアの子供ってだけでさ」  ジョナサンは妙にムズムズしていた。 「ええ。凄く可愛い大切な娘です。いずれカノンちゃんの後輩としてアカデミーにお世話になろうかと。主人は未だに娘の名前を正確に言えず、ペンテレシアとか言います。ペンペンは主人が昔飼っていた鳥の名前で」  おい。こっそり後ろに隠したろう。嗅がせろちゃんと。うちの家族全員嗅ぐぞ。こんなに可愛い緑髪の幼児なら。 「ねえ、嗅がせてくんない?落ち着かんのだが」 「主人が困ってますマスター」  幼児を盾に師匠に無理難題をふっかけるかつての弟子の姿があった。 「うん。何とかする。だから一嗅ぎお願い」  弟子は師匠の習性をよく知っていたという。
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