負けちゃった王様

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負けちゃった王様

 きゃああああああああ!絹を裂くような女達の悲鳴が聞こえた。  二階にあった勇者ジョナサンの本店は、芋洗いのように女がびっしりで、色々なところでピンクドンペリが振る舞われていた。  あ?あれ?誰だ?この異様な集客力は。  全ての女を等しく魅了する不可解な誰かは。 「おじさん邪魔よどいて!」  背中をドンされた。王様を突き飛ばした女は叫んでいた。  もう一回言うよ俺王様。 「あーん素敵!勿論指名するわあああ!一生!死ぬまで!愛してるううううううう!フェリックス様ああああああ!」  うちの倅が無数の女に囲まれていた。  二階フロアは隙間なく女達が塞いでいた。  どういう努力があったのだろう。フェリックスの隣に座れた若い客は、自分の体をロープで椅子に縛り付けかねない様子だった。  フェリックスがモテるのはまあ解る。王宮じゃあいつもリーゼロッテにベタベタクンクンしてるのはまあ解る。  ていうか椅子の回りにいるのうちの女中達じゃねえか?  ちなみにフェリックスは今二児の父親で、リーゼロッテのお腹に次男がいて、ああ今年11歳の誕生日が。って、 「おいいいいいいいいいいい!11歳に何て真似させる!フェリックス!家に帰ってリーゼロッテのおっぱい触ってろ!お前がホストやるのか?!」 「いらっしゃいませ。今日は一段と綺麗ですね。僕が作った髪飾り、とってもお似合いです。メイド長。いや、マーガレットだね?」  フェリックスが微笑んだ所為で客の半分が気を失っていた。 「え?ああお父さん、お疲れ様です。今日の成績は?」  誰もいねえよ!放っとけやあああああああああああ! 「どうなってんだこりゃあああああ!ゴーマああああああああああああああああああああああ!」 「うん。スーツ着せて写真撮ってネットで拡散させたらこうなった。安心しろ。平和な今のアカデミーじゃあフェリックス君が王様だ。お前?電信柱に縄張り主張しとけ」  銃はどこ行った?本当に。 「ただな、お前の気持ちも解るぞ。ここに地味にもう一人いる。今日の売り上げは幾らだった?流紫降(るしふる)」  はい。ゴーマの息子もいました。  フェリックスが白いスーツ、対してルシフルは漆黒のスーツ。  並んで見ると凄い絵になる二人だった。  あ、既に一心不乱に書いてるよ。うちの漫画家が。ペロリンティーナが。 「お代わりはいかがですか?ブリュンヒルデさん。何だろう、凄い見覚えがあります。その空気を読まずに創造欲求を果たそうとする姿勢は、僕の奥さんにそっくりです」 「うぶおおおおおおおおおう!妻帯者ホスト達ほおおおおおおおう!受けと思いきや意外に攻めなルシフル様ほおおおおおおう!」 「フェリックスと流紫降の売り上げだがな。先ほど揃って100億越えて計測不能になった。まさかアカデミーの潜在客にここまで経済効果があったとはな。アースツーバブルなうだ。見ろ。俺が選んだ男達を。あああっちにもいた」  ジョナサンの視線の先には、恐ろしい数の女達に囲まれたジョエルの姿があった。  何で、ジョエルが? 「やっぱりジョエルよ!ジョエルしかいない!今後もよろしくね!ジョエル!」 「動画見てきたんですよ。ジョエルさんリアル勇者だって書き込みが凄いです。アイちゃん行きまーす!」 「アイちゃんは私よおおおおおお!」 「王様ああああああああああああああああ!助けてええええええええええええ !あとドンペリ3つお代わり!」 「女を泣かせない。それだけを忘れずにホストやってたあいつの覚醒だ。まあきっかけは俺の手駒の盗撮動画なんだが」 「でゲス!」  何がでゲスだ。  静也も正男もライルもスライムも、それぞれ客を掴んで楽しくやっていそうで。  何だろう。何だ?この感覚は。  蓋開けたら俺要らなくねえ?  違う。違うんだ。  別にそこまでモテなくてもいい。  でもモテないのは嫌だ。 「何で、こんな。俺の子に負けた俺って一体」 「オーナー!大変です!お客さんの列が王宮を半周してます!多分100万人来てます!」  来すぎ。ホストに100万は来すぎ。 「ふうん。じゃあこうしようか。もう捌ききれんか」  ゴーマが指を鳴らすと、そこはアカデミー近くの大平原で、立ち見スペースに女達はぎっしりで。 「お前、建国記念日だからってホストやるか?普通は。お前の代わりに行事に参加してた女達だ。VIPエリアにいる」 「先生。突然ここに。クリスタルカード(これ)で好きなもの買えって母が。全員にイーライのアイスをプレゼントしたくて」  ユノと父ちゃんには内緒にしてください。ってこと?  イーライは外食チェーンの有望株だし。  呼んでノコノコ来たのはユノだからで。 「お前にはお前の舞台があるだろうが。モテなくたって、おっぱいがなくたって。ああ痛いよマコマコ可愛いなあ。アフター代わりにこれをプレゼントしてやれよ。犬勇者」  ライル(ギター)静也(ベース)正男(キーボード)に何故かドラムはツインでジョドーとジョンナムがいて。  ていうか既にジョエルはチャップマンスティックで高速弾きを披露って。どこまでホールズワースだ。 「しょうがないな。建国記念日のセレモニー出席全部忘れてごめんなさい。じゃあ行こうか!久々の復活だあ!インククリムゾン !」  あれ?そう言えば、サックスがいない。  うん?ルシフル君クラリネット?じゃあ行けるかな?  いきなり始まったインククリムゾンのライブ。ハナの大曲はこれ。やっぱり宮殿だよな。  そう言えば、一応フリップさんに会いに行ってインクリの曲披露してみたんだ。  あらあ!素敵じゃないの!パクったなんて言わないわ。ただし、アースワンでやるなら私に挨拶してね。とか言っていた。何故カマ?  マサオさんのメロトロンの洪水に溺れるように、ジョナサンは数百万の観客に向かって、最高の演奏をお返しをしたのだった。
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