気づいたのは

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気づいたのは

ライブが終わり、ジョナサンが愛人達と仲良くしていた時、突如転移して来たのは、ミラージュと賢者アレハンドロだった。 「おう。どうしたミラージュ。今日はよかったぞ!フリップに会っといてよかった!これでインクリのアルバムはゴールド、いやプラチナ確定だ!」 「それどころじゃなさそうだ。三田村さんに聞いた。ポケットメギドか。面倒なのを持ち込んだ、というよりこっちで作ったか」 ん?ジョナサンは怪訝な顔をしていた。 「動画を見る限り、ああいた。ジョエル、銀髪おっぱいがお前に話があるそうだ」 ジョエルはちょうど、アルテミシアとキスを交わしていた。 「何でしょうか?女王様」 「発端はしょうもなかったけど、蓋を開けたら意外な方向に話が向いたわ。ねえジョエル、あんた、ロクサーヌを知ってるわね?」 「え?ああ!覚えてますよ!姐さんは俺達が店に入った時にナンバーワンだった人で。そう言えば、イルゼの姐さんが入って来た時辺りからあんまり目立たなくなって」 「ジョエルがこっちにいてよかったわ。ねえダーリン、セントラル女子刑務所って知ってる?そこはね、出られないけど意外と自由な空間よ。更生の余地がない受刑者が今も数百人受刑してる。さっきね、ロクサーヌが殺されたわ」 「--何?」 ジョナサンの纏う空気が変わっていた。 ボンクラ王から、勇者に変わっていた。 「女子刑務所は厳重よ。誰も脱獄出来ないようになってる。遺体は抵抗の跡がなかった。何かは解らないけれど、あいつは、ロクサーヌは、息子を自ら迎え入れ、望んで命を捧げた。私が聞きたいのは、ロクサーヌの息子の父親は誰なのかよ。大佐と呼ばれた男は、最終的には別人になっていた。あいつの過去を知り得る人間は、全員が狙われている。あんたはおっさんといた。ジョエルは平気なのね?」 「とりあえず危機はない。何よりジョナサンの前で誰かの命を狙うなど有り得んからだ。はっきり言おう、ジョナサンに纏わり付いたビッチは、奴にとってちょうどいい人材だったんだろう。ジョナサンとジョエル、2人の勇者の敵として、そいつは活動を始めていた。付かず離れずの距離を保ち、様々なジョナサンの関係者から情報を得ていた。1番得たかったのは隣の店にいたジョエルの情報だ。だが、マイナーすぎて全く得られなかった。だから余計に、ジョエルを計画から除外した。あの軍服小僧と、もう一人は別人だと銀髪おっぱいは言った。流石だ。さっきの質問だが、お前は答えを得ていたのだろう?最も多数の人間を知悉している人間がお前だからだ。その離散集合を繰り返し、さながら脳のシナプス結合にも似た無限に近い関係性を全て把握したお前は知っているはずだ。あの軍服小僧から得た正解を言え」 「そうね。ロックス、いえ、それはない。大佐、ロックスを超えた、第3の人格を私は見た。ねえ、ジョエル、ロクサーヌは誰の子供を産んだの?父親が解れば、多分おおよそは理解出来るわ」 「そんなこと言われたって、大佐かあ。実は見たことないんですよ」 「ライバル店のナンバーワンくらい見とけお前は」 「ごめんなさい!そいつは見てないんです!ですが、ロクサーヌの子供の父親なら多分解ります。そういやあ前に見たなあ。店で。いや違う!まだテレビが動画受信機って呼ばれてた頃、メゲレ区の商工会で金を出し合って買ったんでした!ああ覚えてる!なんか姉弟で映ってた!父親は金持ちですよ!名前は、確か!そうだ!Mー1だ!いや違くて!王様の試合見たくてカンパしたんです!」 「ミラージュ、おい、そりゃあ」 「ダーリンはロクサーヌを知らない。ダーリンが八王子にいた頃の私の事件の話だもの。でも、ロクサーヌの息子を見れば、ダーリンとの関係性も見えて来た。ダーリンが出てたM−1で映っていたのは」 「そりゃあ例の死なない男だろう。死がないが故に永遠に殺人生物の餌食にされた。銀髪おっぱいは人物観察については抜きん出ている。少し異常なほどだ。こいつが断定した以上、大佐だかいうエセホストの父親はあいつだ」 「まーーさか。そんな」 「思えば、マルガレーテのお腹の子は死んでしまった。大佐の年齢から概算すると、ロクサーヌが妊娠した時、多分あいつは10歳かそこらだった。フェリックスみたいなケースは滅多にないんだけど、あっちにもいたのね。大佐の本名は隠されている。イルゼすらそれを知り得なかった」 ああああああああ!ジョエルが突如声を上げた。 「解りましたよ!ジュニアだ!父親と同じ名前のあいつをチラッと見た!多分ホワイト・ラインの取引してた!小さな子供を売人に仕立てるってのはメゲレでもよくあったんです!誰かがジュニアって!あいつの名前は多分、アトレイユですよ!」 アトレイユ・エリュシダール。それは、ジョナサン達にとって脅威となる名前だった。 ジョナサンは今も覚えている。星を丸ごと滅ぼそうとした彼の、あの底なしの暗い孤独な精神と、目の前の命を全て、自分の命すら何ら省みない破滅欲求を。 まだ、ジョナサンは、アトレイユジュニアと心を通わせたことはない。ないが、 また、何かが始まるのか。 過去は、静かにジョナサン達を覆い隠そうとしていた。
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