喧嘩を買っちゃった王様

1/1
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ

喧嘩を買っちゃった王様

 あらあ!お久しぶりー!  恐ろしく豪華な部屋の奥で手をブンブン振っていたのが誰あろう、旧銀色のメス犬、イルゼ・リヒテンシュタインだった。  何だろう。うちの王宮より凄い。  ここで少し昔の話をしよう。  昔、ユリアス・ブレイバルっていう殺人鬼のアホンダラがいた。  この馬鹿表向きじゃ最下層国民だった俺にウフフとか言って馴れ馴れしくしていたが、陰では俺をブロンズとか青銅野郎と言って散々馬鹿にして、最上級国民のユリアスに尻尾を振りまくり、あえなく奴のセフレから、ユリアスの学校仲間の共有便所になり、その後孕まされて歓楽街に売り飛ばされた。  その後、俺の子供を無理矢理妊娠しようとして、俺の奥さんに殴り飛ばされた。  死ななかったイルゼは、かつての俺の宿敵、経済協力連合に拾われていた。  ユリアスに殺されず、それ以上の人殺しのアホンダラだった連合の総帥アトレイユ・エリュシダールからも殺されずに済んだこのビッチは、持ち前の特技を活かしてアカデミーのメス犬として君臨していた。  まあ生きててよかったとは思う。忘れてたんだろうな。アトレイユの奴も。投げやりな皆殺し主義者に他の連合は月で皆殺しにされたのに。  あのアホンダラはスッキリさせたかったとか言っていたが、こいつを殺してもスッキリはしなかったらしい。  まあ嫌な予感はしていた。経済特区という商業区の仕組みは、主たる産業のないアカデミーが発展する為に必要なものだった。  結果、アースワンとの貿易で、アカデミーは大層潤った。  真面目な話、イルゼみたいな奴でも頑張ればやっていけるんだぞー。みんなも頑張れー。という話だったはずだ。まあそれはいい。  まさか東以外のほぼ全大陸にイルゼの店が出来るとは。  まさに裸一貫、ラッキー・ビッチは、持ち前のラッキーを遺憾なく発揮して、  今ではアースツーでも二番目の金持ちになっていた。  一番は当然、中央国家セントラルの女王だった。ミラージュも驚いたろう。まさか帰ってくるとは。 「ああーん!相変わらず素敵よジョナ様!いつになったら私のベッドに忍んできてくれるのおー!」  絶対にねえよ臭いし。厚化粧っつうよりおばさんの集団の臭いが。  ああ、悪夢が。ニュクス騒ぎの時、こいつを愛人にするところだったんだ。  何というか、ニュクスが死んでホントによかった。 「いやそれはない。なあイルゼ。お前が最近凄いのはよく解った。ただな。流石にアカデミーで風俗店は。また打ち壊されるぞ。っていうか何があった。東の大陸と」  この前、こっそり違法な風俗店をアカデミーでやってたのだが、東の大陸の若い衆筆頭と次席、サザナミ・イサクとカノウ・ヒョウロクに、突如店は襲われた。  不可解なのは、店の客のほとんどが東の大陸の若者だったことで、更に言うなら、東の大陸の指導者、おさびし村の村長、イシノモリ・サゲンタまでいたことだった。  何やってんだよお前等。  パンツ一丁のサゲンタは、「母ちゃんとユノには内緒にしてください」って頭を下げていた。  今サゲンタが生きてるってことは内緒で済んだことで、その時ジョナサンはそれどころじゃなかった。  ユノの母親である義母のトモエさんから必死に逃げていたのだった。  トモエさんは寂しいのよおおおおお!って言って追いかけてきた。 「あんな暴戻な田舎の百姓なんか忘れてちょうだい!せっかく誠心誠意あれやこれやとサービスしてあげたのに!」  百姓言うな。農家って言え。 「まあいいよ。アカデミーは学園国家だ。公序良俗をしっかり守ってれば。それよりお前、ジョエルの店にちょっかい出してるんだそうだな?あんな小さい店に大人げない真似すんなよ」 「ああら何のことかしらあ?ジョエル?それはジョナ様の偽物気取りの吹けば飛ぶような木っ端ホストクラブのことかしら?あそこは商業区よ?国王陛下にだって手が出せないわ。現在商業区で一番大きいフォックスタワー打倒の為に、私は努力してきたのよ。こんなところで止まってなんかいられないわ」  まあフォックスタワーってのはゴーマが建てたビルで、法人税収考えると到底打倒させられないし。  実際あのビルの最上階には、アイベックスアースツー支社が発表したジャズのゴールドアルバムが飾られていて、その隅っこには俺のバンドインククリムゾンのディスクが飾られていて。  いやまあそれはいい。 「そんなにジョエルの店を潰したいのか?あの店には世話になってんだ。友達と飲みに行く店っていったらあそこしかないし」 「それよ!きいいいいいいい!」  飛び上がってイルゼは叫んだ。偽物っぽいおっぱいが揺れた。 「何で!私の店に来てくれないのよおおおおおおおお!ずっとまってたのよ?!アララギ(隕石落下テロ)事件の時に待ってるって言ったじゃない!結果放ったらかしかああああああああああああああああ!あんな店消えればいいのよ!憎い!あのガキ共が!そしてフラ公おおおおおおおおおおおお!きいいいいいいいいいいいいいいいいい!何であんなホイホイ産めるのおおおおおおおおおおおおお?!」  うん。だって毎日してるし。俺の最愛の王妃様だし。  あとフラ公って何だよ。 「まあ、幸せいっぱいな俺がジョエルの背後にいる限り、負けることはない。違法風俗店畳んでさっさと出てけ。どうせやってるんだろう?今度は何だ。違法なデリヘルとかか?」 「くわ!」 「何だよくわって。認めたも同然じゃねえか。タルカス」 「おー。久し振りだなイルゼ。とりあえず同行しろ」 「けええええええええええええ?!タルカス?!あんたに私を逮捕出来るとでも?!カスのクセに!そうでしょうタル?!」 「誰がタルだ。とっとと来い。風営法違反で逮捕だ馬鹿」 「きいいいいいいいいいいいいいいいいい!私は諦めないわああああああああああああああああああああ!ジョナ様!勝負よ!私が経営するホストクラブ「ブラックインペリアル」と、あんたの「勇者ジョナサン」と!どっちが1日の営業利益を上げるか!あんたが勝ったら店は存続!負けたら即叩き潰してドッグランにしてやるわあああああああ!犬の交尾まで取り締まれないでしょう?!あんたなんかただのブロンズ犬でしょうがあああああああ!ドッグランでメス犬と交尾してなさい!」  いきなり本性を現したイルゼの姿があった。  凄いムカッと来た。 「誰が犬だボケえええええええええええ!お前が勝ったらおう!お前の犬になってやるよ!バター犬な!お前の臭いニャンニャンちゃん舐め回してやるよおおおおおお!」 「言ったわねえええええ?!覚えてなさいよおおおおおおおお!」  イルゼは連行されていった。  結局イルゼは逮捕されなかった。  確かにあの馬鹿は常駐型違法風俗店6軒と派遣型の違法デリヘルを8軒営業していた。 「駄目だありゃあ。代わりに逮捕された雇われ経営者がいただけだった。まあ元客のセントラルの大学講師とか教育者とか、トカゲの尻尾切りだ。おまけにあの馬鹿の背後には、アースツーでも指折りの弁護士共がてぐすね引いて待ってやがった。筆頭はアリシア・グッドワイフ。結局客なんだろうな」  おい。 「釈放と同時に、あの馬鹿は勝負は一週間後。そう言ってた。大丈夫かお前?」  おい。言っちゃったんですけど。バター犬になるって。 「おう。そうだった。ちょうど俺のオフィスに差出人不明の荷物がよ。ほれ」  学園国家アカデミーの警備主任は、それを、長い鎖のついた赤い首輪をゴトリと置いた。  首輪には、モンテネグロと刻印があった。  不意に、ジョナサンの携帯が鳴った。  添付されていた画像には、懐かしのボンテージファッションのイルゼが、鞭を振るっている画像で、鞭の先には、モンテネグロと書かれた犬のぬいぐるみが縛られて、苦しそうに顔を歪めていた。 「よく解らねえが、商業区ってのはほぼ治外法権だ。まあ、頑張れや旧友」 「モンテネグロって何だああああああああああああああああああああ!おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」  王様はそう叫んでいた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!