潜り込んじゃった王様

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潜り込んじゃった王様

 アカデミーの商業区の入り口、飛行挺の発着場があるアルタ駅前にお洒落な公衆トイレがあった。  個室にこもったジョナサンは、やれるメス犬xxxx-xxxx-xxxxxっていう雑な落書きを見つめていた。  それと関係があるか解らないが、妙なイタ電が鳴り止まなくなって仕方なく携帯の番号を変えたということがあった。  ようやく全て繋がった。変える前の俺の番号じゃねえか。  国家の最高権力者の携帯番号を流出させた馬鹿はここにいたらしい。  まあいい。何か凄く切ないけど、行こうか。 「準備はどうだ?タルカス」 「見た目は普通だが、これをやるのか?畜生。平和に捜査官やってりゃあ」  そして、無人と化したトイレから、ぶるあああああああああああああ!っていう合わさった叫び声がして、30すぎのおばさんが二人出てきた。  地上最強の出鱈目理系女子、ルルコット・タルボットのジュースでTSFしていたのだった。 「衣装はバッチリか?」 「部下の嫁さんに頼み込んだ。とんだ変態扱いされたぜ」 「こっちはフラさんのワンピースをガメてきた。結構いけるだろ?って、タルカス、ちゃんとブラつけてこいよ」 「おめえはつけてんだな?違和感ねえってことは、おめえ、まさか」  放っとけやああああああああああ!前になくなっちゃったんで胸のサイズ覚えといたんだよボケえええええええええええ!  昨今最悪の思い出は、今もありありとジョナサンの心に暗い影を落としていた。 「じゃあ行くぞ。敵情視察だ目指すはイルゼのクソ店、ブラック・インペリアルだ」  タルカスの深いため息を聞きながら、ジョナサンは商業区目指して歩いていった。  いらっしゃいませお美しいミセス達。ブラック・インペリアルにようこそ。  二時間待たされたよ。勇者ジョナサンは出入り自由状態だしな。  っていうかあの店でフラさんミラージュ以外の女見たことなかった。  入り口横にはホストの成績表があって、大佐が天辺、ついで中佐に少佐、最底辺が入りたての二等兵だった。  そう言えば、ミラージュが組織したセントラルの武装警察官で、俺は名誉総監の肩書きがあった。  更に言うなら、アカデミーにも国防軍ってのがあって、俺は元帥に任命されていた。  なのにこの差は何だ?ナンバーワンホストのチャー大佐は、今まさに客の老若女達に囲まれていた。  何だチャー大佐て。  確かにアースツーは今ガンダムがブームになってるけど。 「ご指名痛み入ります。小官はチャー大佐であります。着帽のまま失礼」  一番いい椅子に座った黒軍服の小僧は、足を組んで俺達に挨拶した。 「あー。どうも」  けっ、て顔したタル子が紙巻きを咥えると、すっと火が差し出された。 「ありがとう中佐」  今理解したよ。こいつただ座ってるだけだ。  どっちかっつうと中佐の方が甲斐甲斐しく俺達の世話に専念していた。  まあ軍隊あるあるではあった。中佐ってのはそういうもんだと映画で見た気がした。  大佐は、中佐に火を点けられたやたら長いタバコを吸っていた。  うん?アースワン製のタバコなんか輸入許可してたっけ?匂いは多分マルボロだが、あんなに長かったっけ? 「小官のタバコがお気になるのかな?確かに、葉はアースワンから取り寄せ、アースツーのチェスター社が巻いたものですよ。そちらの奥方がお吸いになられているのはまさにチェスターワン。中々に渋いご趣味だ。ご主人の影響のようにお見受けしますが」 「葉っぱなんか輸入してたっけ?」  つい聞いてしまい、タル子に足を蹴られた。 「輸入事業にご興味がおありで?」  アースワンとの貿易に関しては、王宮直営の輸入法人がやってて。  そういやあ親父がマルボロのシャツとか着てたな。何かタダで貰ったってはしゃいでたような。  アカデミー貿易公社の社長になった親父ーーレスター・エルネストは、全く完全にアースワン被れのおっさんになっていた。  親父のコンバーチブルはまあ俺も好きだが。妹のプリムとよくドライブに行くんだった。 「何を考えておられるのかな?ご主人に思いを馳せておられるのか。ああさもありなん。小官は所詮は絶え間ない戦争の狭間にここに立ち寄っただけの男。しかし、これだけは言わせていただきたい」  大佐は俺に顔を寄せた。軍帽から伸びる金髪は綺麗に染められていて、ああ、一緒だ。イルゼと。そりゃあ当然か。 「小官だけを見ていただきたい。我が愛しのレディ・マルレーン」  遠くの女達がキャーキャー騒いでいた。 「ピンドンご注文誠にありがとうございまーす!一同敬礼!」 「こちらの奥様はシャンパンタワーいただきましたー!敬礼!」  大佐以下が全員敬礼を送った。  ジョナ実は言葉を失っていた。  ピンドン頼んだのもタワー頼んだのも、両方知ってる女だった。 「シリルに、トモエさんまで」  今ここにいる上客のトップワンツーは、セントラルとアカデミーのVIPだった。  セントラルの広報大臣と、ユノの母親だった。  かつて、連続猟奇殺人事件を起こしていたクレアの弟(妹)シリル・ファルコーニと、イシノモリ・トモエは、ホストクラブに湯水のように金を落としていた。 「セントラルの美しい大臣閣下とあのご婦人はうちの最高のお客様です。今夜も二人で2000万ループほどお使いで。トモエ様など小官をアフターに誘っていただいて。この通り大量のお(ぐし)をいただいております」  開いて見せた懐中時計には、義母の髪が大量に束ねられていた。  メニュー表によると、遺髪の受け取りは一回60万ループだった。  うちの義母がご迷惑お掛けしまして。 「うん?少々失礼します。中佐」 「はっ!総員傾注!」 ホストが全員起立して、彼等の視線の先には、 「我等の!マダム・ミ・ニュイの為に!」  何かどっかの秘密結社じみていた。衝撃のとか白昼のとか。 「はーい!私でっす!」  馬鹿がいた。ブラック・インペリアルのオーナー、イルゼがいた。 「奥様方!今日も我が国の兵達をご愛顧いただいてありがとうございます!まあ!シリル様今日も一段と綺麗ね!今度私にもマスカレードを教えてくださらない?」  完全パーフェクトに女になっていたシリルは恭しく言った。  ちなみにトランスジェンダーで悩んでいた俺の息子のマリオンの師匠がシリルだった。 「いつでもどうぞ。マダム。お待ちしておりますわ。出来れば大佐殿もご一緒に」 「トモエ様!今日のお着物は華やかですのね!今年も村は豊作豊漁で羨ましい限りですわ!」  まあね。現金収入が乏しかったのはまだアカデミー建国前のことで、世界中が転移法陣で繋がった今では世界最強の田舎者達は当然変わった。  貿易黒字でおさびし村は一気に栄え、東の大陸の長の妻、トモエさんなんかぶっちぎりの超セレブになっていた。  彼女の持っているカードはダークネスより更に上のクリスタルで、月往還船すらその場で買える恐ろしいおばさんで。 「今度大佐君の為にタイリクガメでも取ってこようかねえ?多分3億は固いよ。出征前にどーんとプレゼントさ」  セントラルの美容女王とおさびし村の最強のおばさんの関心は、完全に大佐に向けられていて、とっとと帰れ田舎者がって目で俺達を見ていた。 「大佐。すぐにこちらの奥様の席に着きなさい」 「はいマダム。しかし、こちらの奥様方はまだ時間が残っております」  オーホホホ!高笑ってビッチの女王は言った。 「こちらは延長もアフターもないわ。フランチェスカに財布を握られた貧乏な国王だもの。マスカレードか怪しい生徒の作った毒物か。女体化して敵情視察なんてみっともないことして。そうでしょう?カスタルとモンテネグロ」  誰がモンテネグロだボケええええええええ! 「あっさりバレてんじゃねえか。カスタルやめろビッチ」 「まさか、このおばさんが、世界を救った勇者ジョナサン?マダムを弄んだ最低の、ソルスに焼かれる内定者?」  嘘ばっか吐いてんじゃねえぞお前はあああああああ!  あと焼かれる内定者って何だよ。 「オーホホホ!敵情視察でも何でも好きにすればいいのよ!私の勝利は変わらないわ!どーせ吹けば飛ぶような木っ端ホストクラブと運命を共にしなさい!貴方は私の犬になるのよ!シャツを脱いで腹をお見せ!モンテネグロ!」  ジョエルの店は潰れる。俺の危機こんにちは。  ド畜生おおおおおおおおおおおおい!  ジョナサンは逃げ出したのだった。  そして、 「で?何の用だ?犬勇者。マコマコこっちおいで。両腕と抱っこ紐で抱かれた三つ子をナデナデしてやろう。石榴と紫、水色も可愛いなあ」 「パーパ」 「パパー」 「パパしゅきー」 「降魔さんしゅきー」  一人おかしい気がした。  勇者は冥王ハデスに助けを求めたのだった。  結果、事態は無茶苦茶になることが決定した。
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