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美羽と待ち合わせ場所にした「羽衣の松」は、天女が水浴びをする際に衣をかけたと言われる初代の松から数えると三代目になる。
曲がりくねった枝を四方へ伸ばす樹齢何百年の巨木は、「羽衣の松」と呼ばれるのにふさわしい風格を持ち、見る者を圧倒する。
地面に着くほどに長く伸びた大枝に目をやった衣望里は、天女が羽衣をかけるとしたら、この枝ならちょうど良い長さと高さかもしれないと思い、ふといたずら心が湧いた。
誰も見ていないことを確かめると、布団を竿に干す仕草で、松の大枝にフワリと羽衣をかぶせる真似をする。
祖母の話を聞いて、さっそく感化された自分が可笑しくなって微苦笑を浮かべた時、背後で女性の笑い声が聞こえたので、衣望里は慌てて表情を引き締めた。
「衣望里、天女ごっこでもしていたの?」
振り返ると、黒色のハイネックノースリーブシャツに、カーキ色のチノスカートを合わせ、黒のロングベルトと靴でセンス良く決めた美羽が立っていた。
大学の受験勉強に入ってから会っていないから、もうかれこれ二年ほど経っただろうか。自分とは正反対のクールで大人びた装いが、とてもよく似合っている。でも、中身は意外と熱いことを知っている衣望里は、懐かしさで一杯になり、自然に笑顔が溢れて声が弾んだ。
「久しぶりね。美羽。元気だった?突然呼び出してごめんね」
「うん、元気、元気。大学生になったら衣望里に連絡取ろうと思ってたのに、あっという間に夏になっちゃった。会うのは二年ぶりかな?衣望里はガーリーを卒業して、フェミニン度が増した感じ。きれいになったね」
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