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翼の乙女
「ああ、早く逃げないと、支配者たちがやってくる」
リビングでテレビを見ていた祖母が慄くように言った。
「支配者?」
大学から帰ってリビングに足を踏み入れた三保衣望里は、祖母の言葉を聞いて何の番組を見ているのか不思議に思い、画面に目をやった。
てっきり時代劇か映画だと思ったのに、画面はただのニュース番組だ。
しかも、大スクリーンには富士山が大きく映し出されているだけで、どこにも支配者らしきものは出ていない。耳を傾けると、富士山がユネスコの世界遺産に登録されたニュースだった。
衣望里が住む三保の松原は、富士山から四十五キロも離れているので、富士山の景観を構成することに関連性が無いとして、世界遺産登録申請から除外するようにユネスコから勧告されていた。
それを聞き入れれば十分ほどで終わったはずの審議は、三保の松原は重要な文化があるので、含めて検討してほしいという沢山の嘆願や意見があがったため、当初の予定を四十分ほど延長し、最終的には認められて、登録に至ったとアナウンサーが告げている。
画面には市民たちが酒を酌み交わして喜ぶシーンも映っていた。
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