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それがどう祖母の言葉と繋がるのか訝しんだ衣望里は、祖母の顔をそっと盗み見ると、祖母はまるでこの部屋に誰も存在していないかのように、独り言を呟いた。
「三保の松原が世界に紹介されたら、伝説が蘇ってしまう」
衣望里の頭をかすめたのは羽衣伝説だ。でも、あれは世界各国にあるおとぎ話の一つで、実話ではないと思っている。それに羽衣伝説に支配者は出てこないはずだ。
そう言いたくなったが、黙って祖母の様子を観察する。
もし、これ以上おかしなことを口走ったり、変な行動をとるようなら、両親が経営する旅館「天女の羽音」に連絡を入れて、医者に連れていくかどうか相談しなければならない。
眉根を寄せて祖母を見ていた衣望里は、祖母がいきなり振り返ったのに驚いて思わず声をあげそうになった。祖母は衣望里をひたっと見据えて言った。
「羽衣を探して、彼らに返してちょうだい」
「……お、おばあちゃん。私、ちょっとお母さんに電話してくる」
「しなくていい。私の頭は正常よ。それよりお前に秘密の話があるの。不思議な話だから私がぼけたと思うかもしれない。でも、話した内容は誰にも言わないで。誰かから漏れて、あなたが捕らわれるといけないから」
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