翼の乙女

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 衣望里は小学生のころ、羽衣伝説を興味本位で調べて、「天女の羽衣」が三保の松原だけでなく、日本の各地でも同じような伝説を残しているのを知って驚き、祖母に話したことがある。  その時に祖母から、羽衣伝説は日本ばかりか、アジアはもちろん、西洋にまで存在することを聞いたのだ。  西洋のドイツでは、美しいワルキューレが白鳥に変身して水辺に降り、羽の衣を脱いで水浴びをしているときに、やってきた男が衣を隠してしまい、逃げられなくなったワルキューレと結婚したという伝説が残っているという。  日本の羽衣伝説とあまりにもそっくりな話を聞いて、小さな衣望里はとても不思議に思ったものだ。 「でも、もし翼の乙女が現在もいるのなら、あっというまにSNSに上がって、空を飛ぶ姿が動画で流れるはずよ」 「翼の乙女たちは、今はもう空を飛べないの。生まれた時に、その一族の女性にしか見えない羽や衣をまとってはいるのだけれどね。必要な場合に備えて、母親が用意した密封容器に、赤ちゃんの髪やへその緒と一緒にそれを入れて保管するのよ。そうしないと空気に溶けてしまって、見えなくなってしまうから」 「えっと……その話が本当なら、おばあちゃんが返して欲しいと言ったのは、赤ちゃんがまとっていた羽か衣のことなの?」    祖母が頷いたのを見て、衣望里は盗んだ衣装じゃなかったとホッとした。それなら解決するのは簡単そうだと思って質問を重ねる。 「保管された羽や衣はどこにあるの? それを誰かに返せばいいってこと?」
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