翼の乙女

7/7

116人が本棚に入れています
本棚に追加
/96ページ
「わけが分からないわ。運命づけられるってどんな風に?その国は今でもあるの?」  不安と混乱から解放されたくて、矢継ぎ早に質問をする衣望里を宥めようとして、膝の腕で握りしめた衣望里の手に、祖母がそっと皺だらけの手を重ねた。 「その国はヴァルハラ王国というの。言い伝えでは、国を治める王には翼の乙女がいないと、あらゆる災害や災難が降りかかって、国が乱れるそうよ。王子たちが自分の運命の相手の翼の乙女に触れると、王子たちに宿る神獣の一部が身体に現れるらしいの。王子に獣紋を刻まれないうちに、翼の乙女の印の羽衣を返して結婚の意志がないことを伝えるか、純潔を失えば運命からは逃れられると聞いているわ」 「そんな!見も知らない国に行って、神獣だかなんだかわけのわからない力を持つ人のものになんかなりたくない。獣紋って、名前から怖すぎるわ。ねぇ、おばあちゃん。見えない翼ををどうやって見つければいいの?」  重ねられた祖母の手を握り返し、身を乗り出して衣望里が尋ねると、祖母は視線を外して俯き、首を振りながら辛そうに答えた。 「分からないわ。今まで支配者がここまで来ることは無かったし、翼の乙女の印は回収できていたから……でも、もし今の王子たちに翼の乙女が見つかっていなかったら、血眼になって探しているはずよ」 「それで、三保の松原がユネスコ無形文化財に登録されたニュースを見て、伝説が蘇ってしまうと言っていたのね」 「そうよ。ひょっとしたら、あのニュースを見て、支配者たちが翼の乙女を探しにやってくるかもしれないわ。気を付けなさい。王子たちに狩られぬように。あなたには翼の乙女の血が流れているのだから」
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

116人が本棚に入れています
本棚に追加