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「ただいま本日より、「家族の三つのお約束」法案を施行いたします。
法案の中身はですね、以下の三つを基本としております。
一つ、子供を大切にする。
二つ、家族を大切にする。
三つ、自分を大切にする。
これらはポイント制により管理されることになります。
以上、三つの事柄に一つでも違反した場合、「なかわるポイント」に加算されていきます。家族人数×5ポイントの上限に達したとき、それぞれの更生施設にいき、一年の更生期間をもうけ、そのあと、元の家族に戻れるかどうか、判断することにします。
更生施設に行った場合、本人の判断や家族の要望で自宅に戻ることは一切できず、二度と会うことも許されないことがあることもご理解ください。
そして、「なかよしポイント」というのもあり、「家族の三つのお約束」を一つでも実施できた場合、ポイントが加算されます。各自5ポイントが上限で、「なかよしポイント」が5×家族人数分達成できれば、世帯の安全と健康と収入を永年約束するという仕組みです。こちらは現在、ローンを抱えていたり、介護問題を抱えていたりする場合、そららを全部保護します、ということになります。つまり、全力で国が世帯を助けるということになります。一生安泰ということになります。この「なかよしポイント」はいつまでに、達成しなければというのはなく、いつでも達成できればその年から、ということになります。
この法案は、昨今の虐待、DV、少子化を鑑み、決定された法案ですので、国民の皆さまの健康と安全と幸せを第一に考えた法案だというこをご理解いただければと思います。
内閣総理大臣はそう発表し、記者は、「えー、では詳しく解説を・・」と続けた。
一体、どうゆうこと、、。
テレビの前で、タマコは茫然していた。
タマコだけでなない。タマコの夫、ユウスケも茫然としていた。
中学生の娘ハルコだけは、「ぷっ、三つのお約束って。幼稚園じゃないっつーの。」ハルコの好きなカレーを作ってよかった。今日はたくさん食べている。
「ねー。お母さん、おかわり」
「ハイハイ。ほんとねー。なんだかよくわからないけど、大切にするって、当たり前だし、わざわざ法律にするってなにって思うけど。」
「これは大変なことになった。」と、ユウスケはいった。
「は?」
「わからないのか?言い方はとてもやさしいがこれはきっと難しいんだ。これからは本当に気を付けないといけない。」
と言ったところで、ユウスケの腕からピピと音がした。
それは、先月、日本国民全員に貼られた腕シール。それは産まれたばかりの新生児にも与えられる。この腕シールには、個人情報がすべて入っていて、個人の感情・状態、周囲の感情・状態さえも理解できるというAI搭載のシールだ。そして、政府が個人の情報をすべて把握・管理できるというシステム。
今回の「家族の三つのお約束」もこの腕シールを活用しての第一弾ということなのだが、この腕シールが一体どれほどの威力をもつものなのか、まだ誰も知らない。国民は「試されている」ということだけはわかっている。
「お父さん?」タマコは恐る恐る言った。
初めての腕シールからの発信は、家族全員、息を吸うのさえ忘れるぐらいだった。
「うん。「なかよしポイント」のところが一つついてるね。んっと、家族のことを考えての発言でしたね。ってのも書いてある。」
「なかよしポイントって。」ハルコは小さく笑った。
タマコはこれから一体なにが起きていくのか、見当もつかず、残っているカレーをただ眺めていた。
だいたい、何一つ具体的なことが説明されていないのがおかしい。
家族を大切にする、自分を大切にする、子供を大切にする。
当たり前だけど?
次の日の朝、事件は起きた。
玄関をたたく音で、目が覚めた。
「タマコさん!!いる?いたらでてきて!!」
階段を下り、確認して玄関を開ける。お隣のスギモトさんだ。
「どうしたの。こんな早く、何かあった?」
「どうしよう!!なかわるポイントが18になったの!!あと2ポイントで家族がバラバラになっちゃうのよ!子供と離れたくない!!」スギモトさんは泣き崩れながらそう言った。
「とりあえず上がって。何があったの」スギモト妻はなんとか態勢をもちなおし、話し始めた。
どうやら、昨日の夜、夕飯を食べて話をしているだけで、家族の「なかわるポイント」が18に上がったらしい。
スギモトさんちはちょっと無理して注文住宅を購入したので、それがチャラになるなら、ということでお互いに家族への思いやりの言動をしてみたというのだ。
「だから、私たちは「なかよしポイント」がつくように、思いやりを込めて話しただけなのよ。」
ことの顛末はこうだ。
スギモト夫「おい。「なかよしポイント」をためよう!生活が楽になるぞ」
スギモト妻「そうね、まずは、なにがいいかしら。あ、お風呂沸いたみたい。あなたから先に入って。思いやりよねー。まず、旦那様に先にお風呂に入ってもらうっていうのはいいことよね。私はドラマみてから入りたいし。」
スギモト妻の腕からピピ。
「やった!なかよしポイントかしら?」
スギモト夫「おう!俺、今新聞読んでるから、カズコお前から入れ。娘に譲るっていうのも思いやりだよな。」
スギモト夫の腕からピピ。
スギモト姉カズコ「えー。私、今マンガ読んでるから、タロウから入って。」
カズコの腕からピピ。
スギモト弟「ぼく、やだよ。ゲーム中」
タロウの腕からピピ。
「ぎゃー!なかわるポイントがついちゃってる」とスギモト妻。
「やだー。私もついてる」とカズコ。
「おれも。」「ぼくも。」
「落ち着いて。まだ4ポイントよ。ここから挽回しなきゃ。とりあえず、カズコ、スマホでマンガ読むのはやめなさい。あなたのことを思って言ってるのよ」
「はあー?なんでそれが私のためなの?私だって時間みながらスマホ使ってるんだから!」
「こら!二人ともやめないか!ママはいつも口うるさいから。すこしぐらいいいじゃないか。」
「なんですって!!」
ということで、こんな調子でお互いの事思って言ってるはずなのにどんどん「なかわるポイント」がついていった、ということらしい。
「でもね、あんな自分勝手な家族だけど、子供が幼かったころのこととか、旦那が優しかった新婚時代のこととか、思い出すと、やっぱり、ね、、一緒にいたいのよ。」
そういったとたんスギモト妻の腕からピピ。
「みて!なかわるポイントが一つ消えて、なかよしポイントが一つついたわ!もしかして、子供たちのもポイント変わってるかもしれない!帰るわね!じゃ。」スギモト妻はそうゆうと颯爽と消えていった。
「そうゆうことなのね、」とカズコは妙に納得した。
ただの言動じゃあだめなのよ。子供を叱るときも、夫に小言を言うときも、いくら相手のことを思って言っていても、相手にちゃんと気持ちまで伝わっていないと、ポイントがつかないんだわ。
そう思ったところで、娘ハルコが起きてきた。
「おはよ。ハルちゃん、明日から夏休みでしょ。今日、ちゃんと先生の話をきいてきてね。夏休みの過ごし方とか。宿題とか」
「はいはい。」生返事をして、ハルコは洗面所にいった。
ん?タマコの腕がピピとなる。
なかわるポイント1.あなたは今、子供のことより、自分のことを優先に考えていましたね。
はー??
なんで、夏休みのことを心配していることが、自分のことを優先してるってことなの!!
朝食を作りながら、一体どうして!!という腹立たしい気持ちが渦巻いていた。
だって、ちゃんと聞いてきてもらわないと、夏休みダラダラしちゃうでしょ。1日中、スマホとかネット、ゲーム三昧になりそうだもの。
そんなことになったら、私、ずっとイライラしそうよ。
私、ずっとイライラ。
もしかして、ここなのかもしれない。
ハルコことを考えていてそうで、自分がイライラしないように。
ハルコにはハルコの夏休み過ごし方があるのかもしれない。
一度話してみようかな。
厚切りトーストの焼ける音がした。
これから、「家族の三つのお約束」が始まっていく。
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