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慧一はどういうつもりだと文句を言ってやりたかった。
しかし、和哉の優しい目を見ると何故か緊張してしまい、また言葉が出なくなってしまった。ごく、と唾を飲み込んだ。
それは不思議な感覚だった。
和哉に手で触れられることがとても自然なことに思えた。
緊張するものの、心は妙に静かで、それなのに時折ふわふわと弾んでもいる。
慧一は頬を赤くし、口元を引き結ぶ。この感覚には覚えがあった。
小学生の頃、同級生の女の子に対して感じていた気持ち。それと同様のものを今、慧一は感じとっていた。
慧一は何度か瞬きをし、戸惑う。
そして、自分の頬を触る和哉の手の上にゆっくりと自分の手を重ねた。
無遠慮に触れていた和哉の手が止まり、慧一の目を覗き込むように見る。
「慧一?」
「和哉さん……」
「……どうしたの?」
慧一の呼び掛けに和哉は一段低い声で問いかける。
「分からないことがある……」
「分からないこと?」
和哉は言葉をそっくり返して、首をかしげた。
「分からないこと…… というより、確かめたいことかもしれない。自分が今までどういう気持ちだったのか、知りたい」
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