この人はすきなひと。

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 畳の大広間には大きなローテーブルがあり、大人たちは酒を呑みながら口々に何やら愉快に語り合っていた。 そして、柊木 慧一(ひいらぎ けいいち)もその中にいた。  慧一は中学三年生だが、酒を呑み騒いでいる大人たちに混じり、少し渋味のある日本茶を飲んでいた。  所謂、親戚の集まりで、昔から代々続く土地持ちである慧一の祖父が定期的に屋敷に皆を集め食事会などをしている。  女は必然的に台所が居場所になり、小さな子供は退屈して近所の公園に行ってしまっていた。慧一の周りは全て大人の男だけである。 慧一も抜け出してしまってもいいのだが、慧一にとってこの場所は退屈するものの、苦痛ではない。子供だから空気を読む必要もなく、もう彼女はいるのか、勉強はやっているのか、などの大人の質問に適当に返しておけばいい。 「慧一」  障子を半分開けたところから福代 和哉(ふくしろ かずや)が顔を覗かせた。 和哉は慧一より年上の高校ニ年生で慧一にとっては祖父の兄弟の孫にあたる。 つまり、親戚と言えど感覚としてはほとんど他人のようなものであるが、この兄のような親戚はたびたびこのような大人の集まりから慧一を連れ出してくれていた。
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