第一章 生贄と悪魔

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 キャソックに着替え朝の礼拝を済ませると、聖堂の中を見て回った。  昨夜は想像でしかなかったが、やはり陽が昇ると東側の窓から日光が差し込み聖堂内を明るく照らしている。夕方には西側の窓から同じように光が入るのだろう。建物自体が太陽光を余すところなく取り込めるような構造になっている。聖堂内の祭壇や椅子や調度品も年季は入っているがすべて上等な代物だ。  たとえ自分が司祭でなくとも、素直に、眠らせておくには惜しいと思った。  掃除はまずは祭壇周りから始めることにした。万が一来訪者の気配を察知した誰かが教会を訪れたとして、肝心の祭壇が埃だらけでは恰好がつかない。  しかし、その前にまずは腹ごしらえをする必要がある。  持ってきた荷物の中には旅の間に食べていた硬いライ麦パンが残っているはずだった。道中は硬く味気のないパンをそのままむしるように食べていたが、ここでもまた同じものを食べる気にはあまりなれない。  新任の挨拶がてら町へ買い出しに行くのもいいかもしれないと思った。もしかしたらユフィリ教会のことで何か情報を得られるかもしれない。  しかし俺はすぐに思い直した。赴任したてとはいえ司祭である自分が教会について何も知らされていない事実を町の人々が知ったらどう思うだろう、と。教会への不安や不信感を募らせてしまうのではないか。  ただでさえ現時点でこの教会は町の人々の支持を全く集められていないように見える。何があったか分かるまで、むしろ町には極力近寄らないようにすべきかもしれない。
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