第一章 生贄と悪魔

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 倉庫内は、昼でも高い位置に取り付けられた小さな窓から細い光が差し込む程度で薄暗く、外よりも空気が冷えている。奥行きの深い部屋に祭事で使う燭台や杯などの聖具、鍬や鋤などの農工具から掃除用具まで、実に雑多な物が置かれていた。  倉庫の壁の一面を覆いつくすように背の高い棚が並べられていて、そこに実に多種多様な保存食品が並んでいた。小麦、じゃがいも、チーズ、バター、葡萄酒、果実を乾燥させたもの、木の実、香辛料、干して塩漬けにした肉に魚――  どれも教会の備蓄にしては量が多すぎるし、種類が贅沢すぎる。前任の司祭がどんな人物だったかは分からないが、少なくとも食の面に関しては清貧な生活とは縁遠かったように見える。  実際、修道士の中に戒律を破ってしまう者は珍しくない。  それどころか修道士を隠れ蓑に悪事をはたらく者もいるくらいだ。皮肉なことにその傾向は、より監視の目が緩くなる上位の立場になるほど顕著に表れる。  それだけ人の心がうつろいやすいということなのだろう。  もっとも贅沢品の過度な備蓄は、教会的に褒められた行為ではないが、これだけで粛正されるかというと微妙なところだ。
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