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「ほら」
言うより早く、レニャはパンをひったくるように取るともうかぶりついている。食い意地に呆れてしまうが、パンくずがこぼれるのもかまわず夢中でがっつく様子は年相応の子供らしい。俺も自分の分のパンを切った。
思いつきで作ったにしては上出来の味だった。贅沢な食材をこれでもかと使っているので、美味しいのはまあ当たり前なのだが、思いがけずライ麦パンの酸味が燻製の鮭の旨味をよく引き立てている。とくに道中ろくな物を食べていなかった胃袋に染み渡った。
パンを半分ほど食べたレニャがやっと口を離し、まるでずっと止めていたかのように大きく息を吐いた。
「ぷはあ! こんなに旨いもの、生まれて初めて食べた」
「そうか?」
食材によるところが大きいと思うが、作った手前悪い気はしない。
真剣な顔で頷いているレニャに綺麗な方のバケツの水をコップに汲み手渡した。彼女は喉が渇いていたのか勢いよく飲み干し、またふうと息を吐いた。
「お前はどこから来たんだ?」
そう尋ねると、レニャの動作がぴたりと止まった。
タイミングを間違えたか。
一瞬そう思ったが、今でだめならばどのみち聞き出せないだろう。そう思い、静かに待った。
暫しの沈黙が流れ、やがてレニャがぽつりと口を開いた。
「どこじゃろうな」
その口調はどこか寂しげで自嘲的な響きを含んでいた。
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