第一章 生贄と悪魔

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 一日掛けて祭壇を磨き上げ、聖堂内の椅子を半分ほど拭き上げた。室内の掃除とはいえほとんど休憩することもなく一日中やっていれば、身体はくたくただ。  ただ、無心になれる作業は気を紛らわせるにはうってつけだった。  陽は落ち始めるとやはり早く、ものの数分で辺りはすっかり暗くなった。  一般的には日没とともに教会は表向きの業務を終える。わざわざ明かりの無い夜に働いて安くない燃料を無駄に消費するのを防ぐためだ。これは教会に限らずどんな仕事にも当てはまる。  修道士の場合は夜に教会を閉めた後も、自室で最小限の蝋燭やランタンを灯して事務仕事をこなすのが大半だ。だがそれも掃除しかしていない今日のような日にはあってないようなものだ。せいぜい一日の出来事を日誌にしてまとめることぐらいだろうか。  教会を開けるにも仕事をするにも、何よりもまず掃除を終わらせなければならない。  聖堂の窓から村の方を眺めていると、やがて最後の明かりが消え辺りは真の闇に包まれた。  俺は聖堂中の蝋燭に明かりを灯した。こうしておけば暗闇の中でも浮かび上がる教会を見つけることができるだろう。蝋燭がもったいないが仕方がない。入口の扉の閂も外したままにしておく。ランタンを灯し入り口からすぐに目の付く位置に置いた。  怒っていると思われてもかなわない。  レニャは朝に出て行ったきりまだ戻っていない。
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