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どれくらいの時間が経っただろうか。
突然地鳴りのような落雷のような轟音がして、うとうとしていた俺は無理やり微睡から引きはがされた。
聖堂だ。
ランタンと護身用のナイフを引っ掴み、寝巻の上に適当な上着を羽織ると部屋を飛び出した。
廊下は静まり返っている。雨の降る音も地面の揺れる音も聞こえない。静かな夜だ。
ならばさっきの音は。
聖堂へと続く扉を開け、俺はその場に立ち尽くした。
「なんだ……それ」
思わず声が漏れていた。
入口の扉があった部分にぽっかりと穴が開いていて外の景色が見えている。先程の轟音は地鳴りでも落雷でもなく扉板が内側に倒される音だったらしい。
倒れた扉板の上にのしかかっている生き物がいた。見たことのない生き物だ。
体長は三メートルぐらいあり、全身が剛毛のブラシのような真っ黒な毛で覆われている。頭の上にカモシカのようなねじ曲がった黒い角があり禍々しい光沢を湛えていた。顔つきや胴体は牛のようだが体の前面に突き出した前脚二本と床を踏んでいる六本、計八本の脚がある。前脚は人間の腕のような形をしていた。
アレは何だ。
不気味な獣は、さっきからしきりに荒い鼻息のような音を立てている。
その時、獣から少し離れた通路の間に小さな人影が立っていることに気がついた。
「レニャ!」
声の限りに叫ぶと、彼女ははっとこちらを振り向いた。そして、
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