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片手で包めてしまいそうなほど小さく整った顔が近づき、青い瞳が悪戯っぽく輝いた。
次の瞬間、唇にそっと柔らかいものが押し当てられ温かく湿ったものでこじ開けられる。反射的に身を引こうとしたとき唇の端に鋭い痛みが走った。
思わず閉じてしまった瞼を開くと、目の前に口の端から滴る俺の血を舌で舐めとっているレニャの姿があった。
その姿はまるで子供の形をとった悪魔のようだ。
ブォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!
耳をつんざく凄まじい唸り声と共に獣がこちらへ突進してきた。
「やれやれ、相変わらず行儀の悪い獣じゃのう」
レニャはそう言うと、あろうことか倒れている俺を抱き上げひょいと身を交わした。獣は勢い余って倉庫脇の壁に突っ込んだ。パラパラと煉瓦の欠片が落ちる。
俺の身体を支えているのは今にも折れそうな少女の細腕だ。到底持ち上げられるとは思えない。
「お前は一体、何だ……?」
ようやく絞り出した言葉に返事をする代わりに、レニャは少し目を細めると、俺を壁にもたれかけるよう床に降ろし、通路の真ん中へと歩いて行った。
煉瓦の壁に頭から突っ込んだ獣が体勢を立て直し始めていた。その目は一直線にレニャを注視している。人間の腕のような前脚だけが、まるで別の生き物のようにバタバタとうごめいている。
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