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再び、獣は跳躍した。高く弧を描き通路の中心へと向かって跳んだ。万が一巨体の下敷きになればひとたまりもない。
「レニャ、逃げろ!」
大声を出すと肋骨にびりびりと響いた。叫ぶ以外にできることがない。
獣が着地する衝撃音がし、次の瞬間にはレニャの細い身体が前脚にがっちりと捕らえられ宙に浮いていた。
お目当ての獲物を手に入れた獣は、今やすっかり人間のような笑い声を上げていた。
俺は痛みを堪えて立ち上がった。胸は相変わらずズキズキと痛むが、呼吸ができる分さっきよりも楽になっている。勝算は何もないがこの状況を黙って見ているわけにもいかない。
ナイフを鞘から抜くと獣の背後からゆっくりと近付いた。人間のような薄気味悪い笑い声を上げている獣は前脚の中の少女に気をとられていて、こちらには気付かない。
レニャは気を失っているのか身動き一つしていなかった。
例えば後ろからナイフで一撃を与えれば、その隙に彼女だけでも逃がせるだろうか?
ナイフの柄を固く握り締める。その後のことを考えると眩暈がしそうだったが、必死に恐怖を振り払った。やるしかない。
柄を両手で握り締め腰の辺りで構えると重心を乗せ強く地面を蹴った。
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