みんな候補作

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 陽が刺さない暗い台所で、薬缶が甲高い悲鳴を上げる。僕はすぐに火を止め、注ぎ口の蓋を開き、布巾を持った右手で取っ手を掴むとそのまま持ち上げ、その隣でスタンバイしている麺とかやくの上から、ゆっくりとお湯を落とす。その間、ひと仕事を終えた薬缶が息苦しそうに、ボウ、ボウ、と音を立てる。  お湯を注いだカップラーメンの蓋の上に後入れスープと箸を載せ、六畳間の窓際に設置された作業場と食事所を兼ねたテーブルまでそれを運び、デスクチェアに腰を下ろし、テーブルに置いておいたスマホの画面を見る。時刻は午前11時55分。アラームはちょうど12時にセットしてあるから、おおよそピッタリだ。僕はふうっと息を吐く。  今日の12時、今から約5分後、僕が半年前に応募した文学賞の結果発表がある。運命の瞬間までのカウントダウンを、こんなふうにカップラーメンの出来上がりとともに迎えようとしているのは、僕がひねくれていることとも、僕の髪が縮れ麺みたいなこととも、何ら関係はない。  要するに、僕はいつだって幸福でいたいのだ。5分後の僕がどうなっているかなんて、現時点の僕には知る術もないが、結果の良し悪しに関わらず、僕はその後も生きていかなければならない。もし結果が駄目だったら、その落胆により喪失される心のエネルギーを、別の幸福ですぐさま補ってやる必要がある。トライとエラーの繰り返しの人生において、次のトライまでの猶予期間は短いに越したことはない。なんったって人生は短い、まだ死んでない僕が言うのもなんだけど。  結果発表を待っている間は、みんな候補作だ。全ての作品が、大賞の可能性を秘めている。僕の小説だって、例外ではない。三百万円の賞金、何に使おうかな。いざこうやって考えてみても、案外思いつかないものだな。僕は優雅な生活とは、縁がないのかもしれないな……いや、いかん、待っているこの間だけは、いかなる妄想も許されるのだ、何か考えねば……ハワイ……マウイ……まいうー……。  スマホが鳴る。12時になったようだ。とりあえずアラーム音を止める。まだ結果は見ない。この瞬間はアクセスが集中するから、少し待つ。どんなときでも、余裕を持った振る舞いが肝心だ、僕の文学同様に。  蓋を全て取り、太い麺を箸でほぐし、後入れスープを入れ、再びよく混ぜる。食べる準備が整ったところで、ようやくスマホで結果発表のページを見る。僕の名前と作品 は……。  僕はスマホの画面をそっと閉じ、テーブルの脇に置く。箸で麺を掴み、勢いよく啜る。コンビニで買ったカップラーメン、一個三百円もするだけはある、マジうめぇ! カーテンのない部屋の窓から射し込む光に照らされたスープが、キラキラと輝いているよ! やはりラーメンは、麺が伸びないうちに食うのに限る。
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