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 すっかり気落ちして、コンサートを聴く気にならなくなった僕は教室に戻る。後片付けも終わっていて、誰もいない……と思ったが、茉奈が一人、本日の売上を数えていた。 「なあ、茉奈」 「今話しかけないで」  そうぶっきらぼうに言い捨てて、茉奈は僕に目もくれずに千円札の束を指で弾き続ける。 「あ、ごめん……」  これは僕がうかつだった。茉奈は金を数えている途中なのだ。僕は彼女の手が止まるのを待った。  やがて、目だけを動かして、茉奈が僕をちらりと見る。 「……で、なに?」 「令佳先輩って、彼氏いるんだな」  僕は努めて動揺を隠しながら、ごく自然に言ったつもりだった。だが、茉奈はかすかに口元を歪める。 「見たんだ。浜田、ショックだった?」  僕が「茉奈」と呼ぶようになってから、彼女も僕のことを名字で呼び捨てにするようになった。お互い話し合って、タメ年だからそうしよう、ということにしたのだ。 「いや、別にショックって事はないけど……うちの生徒じゃなさそうだから、誰なんだろうな、って思ってさ」
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