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 片思いの恋があえなく消えても、僕はカメラマンの仕事をやめることはなかった。令佳先輩の顔を見るのが少し辛くなってしまったのは確かだが、その程度のことでこの仕事を放り出すのは、僕の性格が許さなかった。令佳先輩はもちろん部やクラブのメンバーから僕が頼りにされているのは間違いないし、その期待を裏切るわけにもいかない。だから僕は毎週体育館に通った。雨が降っても、雪が降っても。  そう、季節は冬。毎年、新年早々のこの時期には新体操クラブの演技発表会がある。だけど競技会というわけではないので、点数を評価したり順位を付けたりすることはない。あくまでエキシビションなのだ。と言っても中学生以上のメンバーにとってはこの演技会は競技会の予行演習のようなものなので、うちの部のメンバーも演技会に向けてかなり気合いを入れて練習に取り組んでいる。  クラブの演技会の観客は原則的にコーチや市の新体操協会の人たち、クラブメンバーの家族といった関係者だけに限られる。それでも今回は了承を得られたクラブメンバーについては、撮影した演技を後日 YouTube チャンネルで公開することになっていた。しかし、果たしてどれほどのメンバーが公開を了承するものだろうか。おそらくそんなにいないんじゃないだろうか。  と、僕は思っていたのだが……
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